episode2 愛しさ

「悠介ー!」


朝から叫んでくるのなんて

あいつしかいない。


「凛太郎、おはよ」


「悠介~助けてくれよお」


うえーんと言いながら

くっついて来る。

その行動ひとつひとつに

俺の心は揺れまどう。


凛太郎のそういう何気なく

してくる天然なところを

好きでもあったが、心配でもあった。


俺意外のやつにも、と

考えると胸糞悪かった。

どうやら俺は嫉妬深いのかもと

考えていたら、


「って聴いてんのかよ!」


「ご、ごめん、なんだっけ」


夏休みの間、週に1回

勉強をおしえてほしいらしい。

そんなこと、願ったり叶ったりのことだった。

夏休みも凛太郎に会える。

勉強を教えるという口実で。


凛太郎を独り占め出来るのだ。


そんな嬉しいことほかにない。


「いいよ、俺も一緒に勉強するし」

「わー!さすが悠介!お礼ならなんでもいいぜ!」


「凛太郎がほしい」


そんなこと言える訳もなく。


「悠介、また身長のびた?」


「え?いやべつに、わかんないけど」


クラスでは身長は高い方だった。

中学2年生で178cmは俺だけだった。

それにくらべて凛太郎は

たぶん168cmと歩いてて

身長差を感じることが多かった。


凛太郎はそれくらいがいいよ、と

言いながら歩く。


凛太郎のことを好きだと

感じたのは中学にあがってすぐのこと。

凛太郎がほかの男子と絡んでるのをみて

心にどす黒い感情が沸いた。


気にいらなかった。

なんで俺じゃないんだ。

凛太郎の笑顔は、笑う声は

俺だけのものにしたい。


凛太郎のすべては俺だけが、


と、思ってからそれは

好きなんだと気づいた。


そう気づかせてくれたのは

もう1人の幼馴染の佳苗(かなえ)


佳苗とは家族ぐるみで仲が良く

よくキャンプに行ったり

BBQをしたり、離婚してからも

佳苗の両親は俺たちを受け入れてくれた。


「見てて分かりやすすぎるよ、悠介は」


「えっ、なんで」


佳苗はクラスの学級委員でもあり

頭もよかった。

モデルの仕事をこなすぐらい

スタイルも良く、すごくモテててた。

俺の凛太郎への気持ちを知っても

佳苗だけが気づき、理解してくれた。


「ほかの男子と話してる時の悠介の

あの怖い顔っ!はー」


あたし意外にも気づかれたら

どーすんのよなんて言いながら

すらすらと英語の宿題をこなす。


「ゆーうーすーけー!」


「ほら、呼んでるわよ、行きなさい」


しっしっと、佳苗があっちいけと

言わんばかりの手の振りで言う。


俺の事を、名前で呼ぶのは

佳苗と凛太郎ぐらいだ。

だが、それでいい。

なんなら、凛太郎だけでよかった。


愛しい人に名前を呼んでもらえるなんて

こんな幸せはないんだなと

ふと思った。

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