終話ー②

 夢から覚めた朝、私は川向こうのお屋敷を訪ねていた。



「ルネ様、お加減はいかがですか?」

「今悪くなったところだよ」

「良かった。では僭越ながらこちらのサンドイッチは私がいただきましょう」

「アンタは何しに来たんだい」



 憎まれ口が叩けるのは元気な証拠だ。私が持ってきたサンドイッチの入った籠を渋々受け取った左手の薬指には光沢を無くした指輪が嵌っている。昨日リュカ様がつけられていたものと似たデザインだ。



「リティスを授かったので、そのご報告に来ました」



 その言葉に、ルネ様はピクリと反応した。時巡りについては、きっとリュカ様からある程度聞いていたのだろう。そうでなければ、故郷とはいえ高齢になってからわざわざここに留まる理由もない。


「リュカと……話したのかい?」

「ええ、女性に囲まれて幸せそうでした」

「ちょっと待った」


 おっと、つい語弊がある言い方をしてしまった。部屋の中だというのに辺りの風がざわざわと騒がしい気がする。まあ、料理の確約がなかった分、このくらいの意地悪は許してほしいものだ。


「というのは冗談ですが」

「まあそうだろうね」

「ええ。こんなに素敵な女性が傍にいたのにそんなことできるはずもありません」

「おかわりが欲しいなら素直にそう言いな」


 ルネ様はサンドイッチを私に差し出しながら溜め息をついて、笑う。



「逞しい小娘だよ、全く」

「ルネ様以外からもよく言われましたね」



 逞しく成長したのは、誰のお蔭だっただろうか。思い浮かぶ顔はみな優しくて、愛しい。


「探索のリティスを戴きました。2年後あたりを目がけて旅に出る予定です」

「今からとっとと出ていってくれるとありがたいんだけどね」

「そんなルネ様が悲しむようなことはできませんよ」

「で、根拠は?」


 あっさりと流されてしまった。まあいいか。



「守りたい約束がありまして、それが終われば本格的に探索の旅に出ようかと」

「アンタにもそういう人がいるのかい?」

「いいえ、約束を守りに行くだけですよ。私見ての通り律儀なものでして」

「律儀って単語に暴食って意味はないけれどね」



 酷い言われようだ。先ほどのリュカ様への暴言が良くなかったのだろうか。



「……約束を果たしたら、大切な友達を探しに行くんです」



 トーンが変わったことに気付いたのか、ルネ様は少し考えてから口を開いた。



「探索魔法だけじゃ、今あるものしか見つけられないけれど、探索のリティスなら『必ず目的のもの』を探せるからね。友達のうわばみを早く見つけてあげな」



 うわばみではなく可愛らしい花ではあるけれど。心の広い私はそこは水に流してにっこりと笑う。



「というわけで、稽古のほどよろしくお願いいたします」

「はぁ……弟子なんかとるんじゃなかった」



 ルネ様の大きなため息は部屋中に響くようだった。




 そうして、修業の日々はあっという間に過ぎ、旅に出る日になった。まず、彼との約束を果たさないと。確か、そろそろ彼もリティスを授かる年齢のはずだ。前と違って、重圧のない幸せなリティスだといいな。一緒に食べるパンが美味しくなるリティスでも良いかもしれない。


 ギルベアト様やクリス様にも会えたら良いのだけれど、まだ魔物で前の世界の記憶もないギルベアト様が私と出会ってどんな反応をするかは分からないし、クリス様は裏切りさえなければ元の国でかなりのお偉いさんになっているはずだ。一般庶民の私が謁見できるかどうか。




 靴を履きながら色々と楽しいことを考えて、最後にこの旅の一番の目的を思う。




 使うのは一度だけで良い。望むのはひとつだけだ。



『あの世界と同じアミを探して』



 探索のリティスでなければ不可能な奇跡を起こすために。大切な友達に会うために。





「行ってきます」






 罪と荷物を背負って扉を開けた先には、太陽の光が海のように満ちている。








 光の海の中に、私の一生と引き換えに踏み出した一歩は、思っていたよりも存外軽かった。






〜〜〜  あとがき  〜〜〜


ここまでお読みいただきありがとうございました!


正義や正しさについて考え出すと、きっと誰もが正しくて誰もが間違っていて、その中でもがきながら自分なりの答えを見つけて、それを信じて進んでいくしかないんじゃないかなと、そんなことを考えながらのお話で、結末でした。


書く前に影響を受けたのは不朽の名作タッチで、ギルベアトはその影響を完全に受けた形です。話数シャッフルをしたのもその関係で、あの話以降回想等以外は登場しないようにしていました。


各キャラの名前について保存していたものが消えてしまったので全部はさらえていないかもしれないのですが、マナはハワイ語で奇跡、リュカは光をもたらす者、クリスは三世紀頃の殉教者で性格などはその方に基づいて、ルネは再生、生まれ変わり、ギルベアトには固い約束という意味があると知って、その名前をつけました。リリーやアミは作中で言われていたとおりです。


書き終わってからは、堀江由衣さんの光の海へがなんだかすごくイメージに合って、最後の部分はそれに合わせて書きかえたりもしました。もしよかったら聞いて読んでいただけると嬉しいです。


長々と語ってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました! ハートや星などもいただけて嬉しいです。励みになります。

また他の作品もお付き合いいただけると嬉しいです。

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薄情者のフェアリーテイル めの。 @menoshimane

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