触れ合い
サバル国の王都・ルシカ。その城のある一室に、男二人の笑い声が響く。
「はっはっは~! こんなにすぐに会えるとはな!」
「また一緒に酒が飲めるぞ~! 外交とは良いものだな」
「ははーん、俺と飲むのが狙いか?」
サバル国の王・ジハードと親しい者しか通ることのできないこの部屋は、床にそのまま座れるように厚い絨毯が敷かれ、座椅子やクッションが置いてあるくつろげる空間だ。暖色のライトがさらに落ち着いた雰囲気を醸し出している。
今夜は二人の王がここに座り、外交の話し合いと称して酒を注ぎあっていた。
「あまり飲みすぎてはシナ王妃に怒られるぞ」
「なに、今日は先に寝ていろと言ってある。気にするな」
(……本当に仲が良いんだな)
ミアが言っていた通り、シーバ国のアイバン王とサバル国のジハード王は気が合うらしく、今も冗談を言い合っては笑いあっている。
ジハード王の顔もリラックスしており、二人の仲の良さは本物のようだ。
日頃は数名の王室自衛隊という特殊な部隊のみが王の警護を任されているが、ごくたまに自衛隊の者が数合わせで入ることがあった。
今、この部屋にはガイアスと王室自衛隊員一名のみが立っている。
王室自衛隊のルールは厳しく、王の警護をする者には『勤務中に聞いた内容は他者に話してはならない』という鉄の掟がある。
これを破った場合の刑はとても重い。生きていることが苦痛に感じる程らしく……それが強い抑止力となっている。
ガイアスはその刑に処されたという人物を知らないが、もしかしたら秘密裏に消されているのかもしれない。
(ここで聞く話は全て忘れる事にしよう)
ガイアスは、笑い合う王達の会話をなるべく聞かないように、扉の外へ意識をやった。
「思い出した!」
しばらく飲みながら近況を話し合っていた二人だが、ふとアイバンが大きな声を出した。
「そうだそうだ! これを言わねばならんのだった」
「む、どうした?」
「うちのミアに恋人ができたんだ! それがなんと、サバルの自衛隊員らしい」
できるだけ無関心でいたガイアスだが、急に出てきたミアの名前に驚き、思わず王達の方を振り向きそうになった。
まさか報告するとは思わず動揺するが、さすがに名前は知らないだろう。
「ミアが? しかもうちの自衛隊の者だと?」
「名前はガイアスと言うらしい。ミアが家族の前で発表したんだ」
「ガイアス?」
王は少し考え、扉の前に向かって「ガイアス!」と声をかけた。
「はっ」
軽く礼をして王の元へ駆け寄る。
(こんな形で顔を合わせることになるとは)
しっかりと正装し、準備を万全にしてから王宮へ挨拶へ行く予定だったガイアスは、緊張で冷や汗をかいた。
「この男がガイアスだが」
「何? 君か、ミアの恋人は」
「はい」
驚いた様子のアイバンに、緊張した面持ちでガイアスが答える。
「いやぁ、こんな偶然あるもんかね~! 私は、ミアの父のアイバンだ」
「私は、自衛隊第七隊隊長のガイアス・ジャックウィルと申します」
「ミアの言っていた通り真面目そうな青年だ。今週末、うちに来るんだろう?」
「はい。ご挨拶に参ります」
やりとりを聞いていたジハードは、笑いながらガイアスを見る。
「うちの自衛隊隊長がまさかアイバン殿の息子と。これはますます飲む機会が増えそうだな!」
「お、君もそう思ったか!」
アッハッハと笑い合う王達を前に、ガイアスはどうして良いのか分からずそこに立っていたが、良いタイミングで交代の隊員が入ってきたことで、その場から離れることができた。
あれから引き継ぎをしてすぐに屋敷に戻った。
ミアが遊びに来ると言っていた約束の時間まであとわずか。食事も済ませ風呂に入っても気が落ち着かずソワソワとする。
本を開いたかと思えば、集中できずにすぐ閉じる。クッションの場所を直してみたり、ベッドのシーツを引っ張ってみたり……また椅子に座って本を広げるが、内容が全く入ってこない。
(まるで十代みたいだな。もっと落ち着かなければ)
前回したキスの事を考える。
ミアは明らかに初めてといった様子で緊張しており、それは可愛らしかった。それとともに、ミアにほとんど性的知識がないことも明らかになった。
そしてキスが気持ちいいとは言っていたものの、ミアのソコは全く反応していなかった。ガイアスの硬くなったモノを見ても、病気かどうか心配していたほどだ。
穢れを知らないミアにどこまでして良いのか、またミアはそれを望むのか、見当もつかない。
今日、どういうつもりでミアが夜に遊びに来たいと言ったのか分からず、ガイアスはもやもやとしていた。
(期待して良いのか……?)
もんもんとしていると、部屋に優しく風が吹いた。
「ガイアス!」
ミアの声がし、すぐに背中にぬくもりを感じる。お腹に回された腕を見て、ガイアスの頬が緩んだ。
(可愛いな)
無邪気に自分に触れてくるミアが愛しい。
「ミア、顔が見たい」
「はーい。ちょっと待ってね」
手はそのまま、ガイアスの背中から前に横歩きでぐるりと回るミア。そして、目の前までくると、胸から顔をあげて笑った。
「待ってた? 途中でイリヤに捕まっちゃって」
「大変だったんだな」
その頭に軽くキスすると、ミアが嬉しそうにはにかんだ。
(我慢できるだろうか)
自分の精神力が試されている。ガイアスは拳を握った。
「ベッドにあがっていい?」
そう聞くミアに頷き、用意していた茶をベッドサイドに置いた。
今のミアは寝間着を着ている。白いすべすべした生地はキメの細かい薄い素材で少し頼りない。
ゆとりがある部分は問題ないが、ピタッと身体に張り付いた時に中が少し透けて見えるようになっている。
「ガイアスの寝間着、面白い」
フフッと笑いながらミアが言う。
ガイアスは紺色の薄いシャツのような寝間着を着ていた。シンプルだが肌触りが良く、寝る時はだいたいこの恰好だ。
ミアは襟が付いている部分を珍しそうに触っている。どうやらそこが面白いポイントのようだ。
「寝る時、これ邪魔じゃない?」
「いや、特に気になったことはないな。ミアのは、少し薄すぎないか?」
その生地を確かめるように腕の部分を触り、その感触に驚く。すべすべと気持ちが良く、癖になりそうだ。
その触り心地に手を何回も往復させていたが、ミアが自分を見つめていることに気が付いて顔を上げた。
「あ、ミアは遊びに来たんだったな。何かしたいことでもあったか?」
「恋人だから、イチャイチャしに来ただけだよ」
そう言ったミアは、座っているガイアスの太ももに頭を乗せて仰向けに寝転んだ。
ミアの胸から足にかけて、寝間着が身体に沿って張り付いている。その生地越しに、唇と同じく薄いピンクの乳首も透けて見えた。
「……ミア、」
動揺したガイアスが見下ろすと、ミアは撫でてほしいとばかりに顎を上にあげた。
リクエスト通り、首から顎にかけて撫でていくと、とろんとした目で気持ち良さそうにガイアスを見つめる。
そして、ガイアスは以前教えてもらった『狼の気持ち良い部分』を撫でていく。顎の下から耳の付け根まで優しく撫でていると、時折身体がピクッと震えてそこがミアの良い場所だとわかる。
「ミア、気持ちいいか?」
「うん」
少しもじもじとするミア。何か言いたそうな口が動くのを待っていると、小さい声がした。
「なんか、キスしたくなった」
ガイアスは、ミアの頭を自分の足の上から優しくどかすと、覆いかぶさるような体勢を取る。片手をミアの顔の横に付き、もう一方はミアの前髪をおでこに沿って後ろへ撫でつけながら見つめる。
「この恰好でキスするの、初めてだね」
嬉しそうに笑うミアに、ガイアスの動きが一瞬止まる。
「ミア……」
小さく名前を呼び、顔に唇を寄せる。ミアはゆっくりと目を閉じた。
ちゅ……ちゅうっ、
音が出る軽いキスをしてミアの様子を見る。照れているのか頬が赤くなっており、耳は少し垂れている。そして目を強く瞑り、ふるふると震えていた。
その姿にフッと笑いを落とす。ミアの口を軽く舐め、開けるよう促した。
「……んぁ、」
ミアがその意図に気付き口を薄く開ける。ガイアスはそこに舌を忍ばせる。
「ふぁ、」
身じろぎしたミアの足がガイアスの足の付け根に当たる。
「……はッ、ミア」
偶然とはいえ刺激されたガイアスは、ミアに優しくキスをする余裕がない。その小さな口に自分の舌を差し込み、激しく犯した。
「ん……んぅ……むッ、」
苦し気な声がするが、気遣う余裕がない。ガイアスのソレは痛く張りつめだし、ミアを求めている。
ミアの歯列をなぞり、舌を吸い上げていく。
ちゅむちゅむという水音と、甘い声が響く自分の部屋。ガイアスは組み敷いているミアの上着の端に手を入れた。
「んッ、はぁ……ガイアス?」
その手に気付いたミアが、どうしたのかと聞く。
「ミア、キスは好きか?」
「う……うん」
「もっと、気持ちいいことしよう」
「えっ?」
そんなものがあるのか……と言いたげなミアの反応。
(嫌がってはいないな)
安心したガイアスは、そのままミアの上着をずり上げて脇腹に手を添える。腰にある模様がチラッと覗いた。
その瞬間、ガシッと手を掴まれる。
ミアは少し怒ったような顔をして頬を膨らましている。その表情を見て冷静になったガイアスは、脇腹から手を離した。
「ミア、すまな、」
「その手……」
ゴクリとガイアスの喉が鳴る。
この行為が嫌だと拒否されたら、ミアに嫌われてしまったら……立ち直れそうにない。
緊張しながら言葉の続きを待った。
「くすぐる気だったでしょ!」
ミアはケラケラと笑いだす。
「よくも騙そうとしたな!」
そう言って笑い続ける姿に、ガイアスは何が起こっているのか分からなかった。
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