第5話 感想

 翌日の朝、教室に入るといつものように既にいる大岡さんは友達と談笑していた。


 素行の悪いギャルは登校時間を少し過ぎてやってくるイメージがあるが、その点大岡さんはそんなことは一度たりともない。


 ただ俺の中ではもうピュアで清楚系ギャルの枠に大岡さんは入っていない。


 俺が教室に足を踏み入れた瞬間に俺の存在を視認した大岡さんが軽く手を振って挨拶してきた。


 それに対して控えめではあるが俺も軽く手を振り返した。


 今ではもうただのクラスメイト同士ではなくなってしまった俺と彼女の関係は、言葉では到底言い表せない。


 自席につき真正面へ顔を向けると、一直線の先に大岡さんのスカートの中の光景が目に入った。


 またいつも通り、大胆に脚をあげておりパンツがチラリと見えている。


 丸見えではない、チラ見えだからこそ価値がある。


 昨日はお目にかかることができなかったが、今日は問題なく色を確認することができた。


 一昨日の黒パンに続き、今日は白パンを履いている。


 無駄にさまざまな色を持つのではなくあえて黒と白というシンプルなパンツしか履かないのは良いセンスをしていると言える。


 スマホを取り出し、昨日のやり取りを振り返る。


 昼に屋上で集合、と送られている。


 確か屋上へ通じる階段は立ち入り禁止のはずだ。


 そしておそらく屋上への扉には鍵がかかっている。


 いったいどうやって屋上に集合するのだろうか。



「ほい、屋上の鍵もらってきたよっ」


 弁当を持って屋上へ通じる階段の手前で待っていると、少し遅れてやってきた大岡さんがチャラチャラと鳴ったものを投げてきた。


「うおっと……どうやって手に入れたの?」


 三つくらいの鍵が一つの輪っかにまとまっている。


「美波ちゃんに頼んで借りてきたの。ほら誰かに見られないうちに早く入るよ」


 美波ちゃんとはうちのクラスの担任、美波千夏先生のことだろう。


 苗字が名前っぽいのが特徴だ。


 手に持っている三通りのうち、二回目で扉の鍵を当てて屋上へ脚を踏み入れた。


 この学校に入って初めて屋上にやってきた。


 だからと言って感動があるわけではない。


 過去に何度も来慣れているっぽい大岡さんはフェンスまで一直線に向かい、そこに作られている段差に弁当を置くとフェンスに手をかけて僅かに身を乗り出した。


「ちょ、危ないって……」


 駆け足で彼女の元へ向かった。


 そこからは校庭が丸見えで、さらに周辺の街並みが一望できる。


「自殺するんなら俺がいないときにやってね、怖いから」


 事情聴取を受けるまでもなくこの場にいた俺が突き落とした犯人として逮捕されてしまう。


 誰にでも優しく明るい性格の大岡さんが自殺なんてするはずがありません、一緒にいた男が大岡さんを突き落としたに違いありません───となる。


「するわけないでしょぉ。私はそんなことを言う佐伯くんが怖いよっ」


 段差に腰掛けて、自らの弁当を膝に置いて昼食の準備をし始めた。


「食べよっか」


「う、うん……」


 大岡さんに続いて俺も弁当を開けて食べ始める。


 これは確か、彼女が俺にお詫びをしたいということで作られた場だ。


 別に物理的なお詫びなんて求めていないし、改めた謝罪なんかもいらない。


 だが、昨日メッセージでお詫びをしたいと彼女から言われたのだから期待せずにはいられない。


「……っ!?な、なにか……?」


 彼女の方へ目を向けてみれば、こちらを諸にガン見している大岡さんと目があった。


 危うく口に含んだご飯を喉に詰まらせるところだった。


「いやさ……一つ佐伯くんから聞き忘れていたことがあったなと。公園で私のお尻を見たときの感想を教えてよ」


「感想……?そりゃあ、見てはいけないものを見てしまったなって思ったよ」


 夜中の公園でパンツ姿の尻を見つけたんだから、やってしまった感がすごいあった。


「そーいう感想じゃないよ。私のお尻に対する感想を聞きたいんだよ!佐伯くんは知らないと思うけどね、あのとき履いてた黒パンは私の勝負下着なんだよっ!白黒は私のお気に入りなんだからね」


「ちなみに白パンはどんな特別な意味があるの?」


「んー……黒は勝負時でしょ、だから白は戦わない時だね。穏やかなときに履くのが白パンかな」


 なるほど、つまり今日は勝負をしにきたわけではないのか。


 静かに胸の内で安堵しておく。


 ん、……ということは黒パンを履いていたあの日の夜は勝負をしていたのか!?


「それで、どうなの佐伯くん。感想教えて」


「あー………えっと、ぷりっと丸くてきれいな尻でした」


 言葉に出すとこの上なく気持ち悪い。


「そっかそっか、佐伯くんはぷりっとしたお尻が好きなんだね」


「そんなことは言ってないぞ……」


「ちなみにさ、私のお尻を叩いた感想はどう?」

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