遠江経営の章

1556年 家操23歳 二俣城大改修

 1556年 家操23歳


 斎藤道三死去(長良川の戦い)

 毛利元就が尼子家を破り石見銀山を奪取

 畿内で天然痘が流行し病死者多数






 昨年は行政官不足でろくに行動ができなかったが、ようやく奉行衆の数も増えてきたので行動ができるようになった。


 特に元今川家臣で史実では名前が残ってないが富士信氏という晩年の太原雪斎の下で勉強していた人物で、北条ではなくこちらに仕官してきた者も数は少ないが居り、それが行政能力の向上に役立っていた。


 富士は今俺の秘書みたいな事をしてもらっていた。


「富士! 富士はいるか!」


「はい! なんでしょう!」


「常滑から引っこ抜いてきた村人を使って新農法普及の準備を始める! 農法に従うなら今年も2公8民を維持すると伝えるぞ」


「……よくその税率で家を養えますね」


「その分商売に力を入れている。物を領主権限で安く仕入れて、高く売っているからな。その利益を領地運営に還元しているんだよ」


「まぁ常道ではなく邪道の領地運営をしているというのはわかります。まぁ邪道故に今川は倒されたわけですが」


「今川と比べたら確かに邪道かもしれないけどね……さて、話していても始まらないから行くぞ」


「はい!」






「本当にこの者の言う事を聞けば今年も2公の年貢でよろしいのでしょうか」


「ああ、この者に渡した種籾を使って、指示に従って農業を行えば豊作は確実だ。不作だったら税を免除してやっても良い」


「はぁ……でしたら……」


「ただ今年豊作だったら来年検知をしっかり受けること。良いな」


「ええ、豊作でしたら従いましょう」


 とある村との村長と交渉を終える。


 富士から


「農民のくせに領主の言う事に疑問を持つとは」


「まあまあ富士、俺も元々農民だから村長が疑問を持つのはよくわかるぞ」


「そうなのですか?」


「ああ、そうだ。しかも生活に直結する米の生産に関わるからな。慎重な方が良い村長と言える……次の村に行くぞ」


「は!」






「ええ! 言う事聞きますとも! ですか少しばかりで良いので常滑を栄えさせた領主様の手腕でこの細江村を栄えさせてもらいたいのですが!」


「ほう、俺の事を知っているのか……協力してくれるならこの村を町の様に栄えさせよう」


「ははぁ! ありがたき!」


 細江村の村長とそう約束したが富士から大丈夫なのですか? と聞かれたが、俺は問題ないと答える。


「浜名湖に接しているから水運が使える。それだけでも町になれる素地はある。村民も協力的故に工場を建設するか!」


 細江村には元々中村で俺のやるのをよく見ていた中嶋権兵衛という男を派遣し、養蜂のやり方を伝授させる。


 それに養蚕の準備として桑の木を植えさせて、米油工場の建設も行った。


 水運で運ばれてきた米ぬかを米油工場で油にしていけば村に相当な利益が出るだろうし、港を整備すればそれだけ水運も活性化する。


 常滑の領地経営で成功した技術をそのまま転用した形になるが、浜松は将来的な茶葉の産地であるため、茶葉の生産量を拡大させた。


 養蚕業は俺も関わったことが無いため転生前に書物や映像で見た程度の知識しかないが、細々と糸を作っていた農家があったので、金を出して保護し、技術を他の村人にも普及させるように頼み込んだ。


 領主に頼み込まれると思ってなかった養蚕をしていた農家は快く承諾し、浜松の養蚕の基礎を確立していく。


 養蚕ができれば培養法による火薬生産にも弾みがつくからだ。


 硝石丘法による火薬生産よりも硝石の生産量が数倍に上がるのが利点であり、今年から始めれば5年以内には生産が安定すると思われる。


 あとは領土が広がった分、牛や馬等の牧場も拡大し、肥料を作ることも軌道に乗せた。


 その分資金はかかったが、十分に元は取れるだろう。


 肥料を大量に作って安く農民に売る。


 農民は安く肥料が買えて作物の収穫量が増える。


 こっちは肥料を安定して買ってくれるし、税も増える。


 win-winである。


 俺が各地に足を運んで技術の伝授や商人や技師相談して工場をどんどん建設していき、今川が滅んで離散した流民を工場従事者として職を与えて、浮浪者になるのを防ぎ、兵が見回りをするので野盗の出現の抑止になっていた。


 治安が安定し職に付けると話題になれば更に流民が流れ込んできて人が増える。


 人が増えればやれることが増える。


 常滑に作った学校の分校を浜松城下にも作り、人材育成にも力を入れる。


 こうした好循環が生まれている最中、美濃で事件が起こるのだった。







 元々美濃国人衆から人気が低かった斎藤道三が息子の斎藤義龍に謀反を起こされ長良川の戦いが発生。


 信長様は義父の窮地と知り、親衛隊3000名を引き連れて美濃に向かって飛び出し斎藤道三の救出に動いたが、美濃に入る頃には斎藤道三は戦死しており、逃げ出した斎藤道三の末子の新五郎(斎藤利治)から国譲り状を受け取り、追撃に来た斎藤義龍軍に対して信長様自ら殿をしてほぼ無傷で撤退に成功する。


 織田家は以後美濃斎藤家と敵対して外交戦を展開していくことになる。







「ここに堀を置き、壁の高さは1丈(約3メートル)もあれば大丈夫でしょう。土台となる白漆作りの石垣の建造も順調であります」


 信包様と相談しながら二俣城の改築も順調に進んでいた。


 元々天竜川と二俣川の間に挟まれた間の場所にある城であり、防御力は高かったのだが、それに俺の魔改造が加わったことで難攻不落の城となる予定だ。


 外観はコンクリートが全面に使われているため白みががっているが、壁の至る所に鉄砲を放つための穴である銃眼が設置され、史実では弱点となった城が岩盤の上に作られているため井戸が無いという点を、その岩盤を黒色火薬を使った爆薬で爆発採掘を行い、岩盤を無理やり粉砕することで井戸を掘ることに成功した。


 ただ金がかかり過ぎるということで2ヶ所掘った時点で断念し、通常時には川に隣接した水の手櫓から水を汲み上げて使うことにし、籠城する時等は掘った深井戸で水を確保するという決まりを作った。


 通常の城の4倍近くの金額がかかったが、着工から1年半でおおよそが完成し、新技術である天守閣のある城ができたのだった。(最初に天守閣を作ったとされるのは松永久秀)


「壮観だな」


 川の間にどんと鎮座する二俣城……俺だったらこの城を攻略するには大量の臼砲を使って砲撃するか兵糧攻めをするしか無いと思える。


 力攻めをしたらおそらく10倍、20倍の兵でも1年半は籠城して守り抜く事が出来るだろう。(弾薬の備蓄量にもよると思うが)


「なぁ家操、私だったらこんな城を攻めたいとは思わないが」


「信包様、私もこんな城を攻めたくはありませんよ」


 城内には食料備蓄を増やすためにじゃがいもや薩摩芋等を植えた畑があり、しかも生活しやすいように居住区画と天守閣はまだ高級品の畳がふんだんに使われていて居心地も良い。


「まあ武田家に攻められればここが最前線になるからな。北条家と同時に攻め込まれれば厳しいが、片方なら家操が建造中の浜松城と協力すれば陥落させるのも難しいだろうからな」


「はい、浜松の城が完成すれば遠江西部における織田家の防衛線は完成します。さすれば武田家や北条家が五万の大軍を率いてきても守り抜く事が出来るでしょう」


「うむ、遠江を守りぬかなければ兄上が美濃侵攻に集中できんからな」


「美濃を信長様が領有できましたらいよいよ織田家の領地は150万石を超える大大名となりますな」


「まあ家操は遠江防衛で武功が挙げられないと思うが……」


「これ以上領地を獲れば重臣の方々からどう思われるか……武田家と北条家に囲まれた遠江の地だから大領を得ても気の毒にと思われているのに」


「まあ今は両家とも同盟を結んでいるからな。とりあえずは大丈夫だろう」


 まあ武田家も北条家も長尾家が暴れまわっているのであと10年は大丈夫だろう。


 それまでに美濃を取っておきたいところだが……。


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