1556年 家操23歳 チーズ バター マヨネーズ

「家操様! 父の代からご贔屓にしていただきありがとうございます! 俺は武士として津田家に貢献できるように頑張ります!」


 そう言うのは今年12歳で元服した大黒兄さんの長男大黒宗一郎である。


 大黒兄さん一家も金を持っているので子沢山であり、支店が幾つかあるのでそこに継がせれば良いのに、俺が困っているからと長男を奉行官見習いとして就職させに来た。


 俺も大黒兄さんとは長い付き合いだし、その息子ということで幹部候補生として育成していくと決め、家老の石川数正の下につけた。


 こんな感じに中村や熱田や津島商人の知り合いから子供を仕官させたいと願いだされる事があるが基本ウェルカムである。


 それだけ文官の数が足りてないという悲しい現実があるが……。


 そうそう、この前信長様から手紙が届いたのだが……これは恋文かな? 


『最近お正月しか会えてないね。鶴と夜を共にできなくて凄く寂しいです。最近は犬千代も大きくなって前田利家と名乗り始め、愚連隊の面々も一端の武将揃いになってきました。最近は結婚する者達も増えて祝福する贈り物を贈る機会と祝辞を書くのが日課になってます。あ、政務もしっかりやっているよ』


『ただ美濃の斎藤道三殿……余の義父ね。義父殿が亡くなってから美濃と尾張でいざこざが起こるようになったので将軍様へ上洛して挨拶をするのも遅れそうです。あ、あと小麦から手紙が来たぞ。城の改築が終わるまで常滑で生活させているそうじゃないか。妻は近くで旦那を盛り立てるのが仕事だからなるべく早く移住させてまた子作りに励むんだぞ! 常滑に行った時にお主の兄から鶴の子供達を見せてもらったが滅茶苦茶可愛いな!』


『長男か次男どちらか余の小姓にしちゃだめか? お返事待ってます。のぶより』


『追記 砂糖と蜂蜜のお代わり待ってます! それらを使った菓子を作ってくれたら最高です』


 分筆的に信長様本人が書いたんだろうなぁ。


 あの人普段の行動はビシッとしているのに、分筆は女々しいんだよなぁ。


 大切に保管しておこう。


 返信もしないとな……なんて書こうか。


 信長様への返事を書いたり、政務をしながらそう言えば牛乳をバターやチーズへの加工が全然できていないことを思い出す。


「大野の牧場を稼働させて、五位様経由で蘇を復元させて売っていたけど、本題はチーズとバターを作ることだった! 今年からでも間に合うか?」


 俺は信長様への返事を書き終えて直ぐに牧場に向かうのだった。







「家操様、こんな汚い所にわざわざ」


「いや、牧場は俺の肝入りの産業だからな。汚いも何も関係ない。それよりも蘇にしている牛乳はまだあるか? 新しい商品の開発に使いたいのだが」


「今の時期ですと牛達も水をよく飲むので乳の量も多いですが、少々水っぽくなってしまってますが」


「構わない。なるべく量が欲しい」


「わかりました用意しましょう」


 津田家の管理している官営牧場は基本元忍びだった者や甲賀から引っ越してきた者の家族が管理していた。


 頭数の増加で流民の人を雇い技術の伝授も進められていたが、そもそも普通に農家で牛を持っている人達は牧場みたいに多頭数ではなく少頭数飼いで労働力がメイン。


 牧場みたいに肥料、牛乳、そして肉や革をメインにしているところとはやり方も違うし、農地があるならわざわざ牧場にするより米や畑にするのが日本人。


 甲賀は田畑が少ないので家畜を売ることで銭を得ていた人達も多く、家畜の扱いは手慣れていたので牧場方式にも直ぐに順応できたが……。


 そんなんなので、忍びとして働けなくなったり適性がなければ忍び一家出身者は牧場でよく働いていた。


 閑話休題


 後日、俺は用意してもらった牛乳をチーズを作ってもらう職人達の前で実践する。


 まずは牛乳を加熱し、熱殺菌を行う。


 これに大野の果樹園で実ったレモンと砂糖で作った酵素シロップを牛乳に数滴垂らしてかき混ぜて牛乳を固める。


 固った牛乳(カードという)に切り込みを入れてから再度熱して水分を飛ばし、残ったカードを型に入れる。


 それをプレス機で更に水分を抜いてから海水に漬け込み、それを暗所で寝かせて数ヶ月発酵させればチーズが出来上がる。


 俺も暇ではないので最初のやり方を教えて、あとの管理は任せたが、完成したチーズは1個1貫で売れると職人達に言うと目の色を輝かせていた。


 職人といっても手先や物覚えの良い流民達で、職人というのもおこがましいが、やり方を覚えてもらえば質は低いかもしれないがチーズはできる。


 質は何度も繰り返すことで上がっていくだろうし、チーズができれば食事の質も上がる。


 それと同時にバター作りも始める。


 バターは簡単だ。


 搾った牛乳を竹筒等の容器に入れてとにかく振る。(流石に人力でやるのは限界があるので大規模化したら水車を使って容器を振る様になったが)


 それでホイップになるので、ザルで濾して、絞って、塩を少量混ぜて型に入れて圧縮すれば出来上がりである。


 こちらは比較的短時間にできたので大黒兄さんや商人を建造中の浜松城に集めてバターの商品説明を行う。


 バターを使ったベイクドポテトやバター醤油のきのこ炒め、バターで焼いた鶏肉、パンにバターを塗った物等を出す。


「うん! パンが更に美味くなった」


「茹でたじゃがいもは塩をかけて食べるのが一番だと思ったがこれはこれで美味いな」


「乳油(バター)か。これを熱して溶かせば油の代わりにもなるのだろう? これは売れると思うな」


「売り方次第だろう。普通に売っても良いが、これは固形だ。油のように運ぶときの手間を考えたら、固形のこっちのほうが扱いやすい」


「油とは言うが風味も味も油とは全然違うからな」


「少々値はするが十分に売れるだろう」


「これを使った料理屋を作れば需要も増えるだろう……領主様! 買えるだけ買うぞ俺は!」


 俺が一旦ストップを入れる。


「まあまて、これはそれほど量が作れる物でもない。価格も1斤で100文はするぞ」


「100文か……高級品として売ればなんとかなるか?」


「いや乳を使っているから薬としても売れるだろう」


 値段を聞いて少々熱は下がるが、売れると判断した商人達と契約を結び、官営牧場で作ったバターは優先的に彼らに卸すという内容で結び、俺は乳製品の需要を引き上げるのだった。








 レモンが少量ながら作れるようになったので養鶏の需要拡大を狙ってマヨネーズの商品化も行った。


 マヨネーズは卵、酢、植物油、塩、少々のレモン果汁を入れることで自家製マヨネーズは完成する。


 卵の代わりに豆乳でも良いが、油を生産している俺は新しい調味料として安く売り出すと、貧乏人はマヨネーズを米にかけて食べるマヨラー丼を食べる光景が各地で見受けられた。


 現代人からしたら恐怖であるが、マヨネーズの味は戦国時代の人達からしたら劇物であり、大量のマヨラーを生み出す結果となる。


 ただこれにより動物性たんぱく質がとれるようになり、全体的に肉付きの良い人が多くなっていくのだった。


 兵たちからも高評で、マヨネーズを入れた筒を持ち、行軍食に塗って食べる者が続出するのだった。




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