1553年 家操20歳 本気の米転がし

 領地が10倍に増えた為に奉行衆を急拡張させることになった。


 適性ある兵士や町民からも奉行衆を希望する者は面接後に武士身分に上げて参加させたし、多聞丸に頼んで忍者で計算できるやつを里から引っ張ってきてもらったりと砂糖を製造できた事で得た利益の殆どを人材の発掘に充てて忙しくしている中、増やした忍び達を使い各地に豊作になりそうと言う噂話をばらまいた。


 今川領内や畿内を中心にその噂をばらきながら米相場を集めた現物の米を放出して米相場を意図的に下げ始め、相場が下がり始めた所で他所よりも1割マシで米を買い取ると忍びを使って更に現物を集める。


 この時はやや損失が出るが、着実に相場が下がり始め、畿内や今川の米相場はもう自分が食った方がマシというレベルまで米相場が落ち込む。


 その時に津島商人や熱田商人に俺の今までのコネを使い大量の借金を申し込む。


 増えた新領土の開発資金が莫大になりそうと、それなりの理由を付けて、借金の代わりに知多半島で新設する水軍は海上で税を取らないこと、もし借金が支払えなければ津島や熱田の油工場を技術ごと売却するという誓約書を書いて5万貫をかき集め、下がりきった各地の米屋から米を買い集めた。


 これで昨年集めた現物と合わせて20万石を確保した。


 そして夏場に猛暑が続いたが各地に別の場所では豊作の予定だと噂を流し続けて相場を維持し、秋になる。


 記録的な大旱魃で殆どの地域で米が大不作に陥りそこに米屋よりも安く寺や大名達に相場より1割安く大黒兄さんや熱田、津島商人経由で市場に反映される前に売り抜きを行った。


 数字で表すと市場操作を始めた6月が米相場が1石に対して0.5貫(最安値)だったのが収穫が始まった8月には1石4貫まで相場が跳ね上がり、寺や大名などの市場に反映されるまで時間差(放出するのに時間がかかる)が出る所に大量に米を売却する。


 この時点で用意していた20万石が80万貫に化け、更にその一部を関東の意図的に米相場に介入せずに無事なところから1石1.2貫の普通相場で米を購入し、それを上がりきった畿内の米屋に相場より少し安い1石3貫で売り始めると皆飛びつき、米相場は下落。


 すると米を蓄えた大名や寺が米を売ろうとすれば相場が下がりきってお、損失を補填するために徳政令が各地で乱発、寺でも借金の帳消しを行ってしまい、畿内の米屋や関連産業(酒屋、蔵貸し等)も大損で畿内の産業は大混乱になってしまう。


 これと同じことが今川領内でも発生。


 経済戦争という別次元の攻撃により今川家は徳政令を出したくても今川仮名目録にて米の借米銭の最低利子率を決めていた為に徳政令を出すことが出来ずに米屋と共に今川家の財政に大打撃は発生。


 今川家の宝物を手放したり税率を上げることで対応したが、それにより負担を押し付けられた遠江国衆は激怒し、今川から離反の動きが加速していくことになる。


 今川の財政が大幅に悪化した事で商業の規模も大幅に縮小、鉄砲を買うことも無くなるし、流民を吸収できるようなキャパも失ってしまう。


 しかも織田家による三河殲滅戦で大量の流民が流れ込んだことで今川領内では普通の収穫量にも関わらずに餓死者が発生。


 宰相の太原雪斎はこれをなんとかしようと奮闘するが、経済という政治ではどうしようもできない分野の攻撃によるストレスの結果、無理がたたって血を吐いてそのまま10月に亡くなってしまう。


 太原雪斎が最後に進めていた三国同盟構想は今川家の弱体化により武田や北条が今川を攻撃した方が得じゃね? と思ったことで破綻し、信長様は今川を財政的に攻撃すると俺が伝えていた為に、今川を武田、北条で攻撃する逆三国同盟……今川包囲網を持ち前の政治手腕で締結させ、武田には腹違いの妹を婚姻として送って婚姻同盟を締結、北条とは物理的に距離が離れているので遠江と駿河分割案で同意を取り、武田には代わりに遠江北部、駿河北部地域の割譲で同意を取り付けた。


 織田家というか守護の斯波家は遠江守護も元々持っていたため、織田家には遠江攻撃の大義名分がちゃんとあるのだ。











「で幾ら稼いだのだ?」


「合計すると100万貫は稼ぎました。畿内で銭が足りなくなったので金銀財宝等を質として取り立てて奪ってきたのでこれで畿内は10年は混乱するでしょう。信長様の取り分の40万貫をお収めください」


「40万貫……尾張全域の年貢2年分か!」


「織田家の直轄地ですと8年分になりますね」


「これでもっと兵を養えるし鉄砲も増やせそうじゃな! よくやったぞ鶴!」


「はは!」


「ちなみに他の取り分はどうなっているのだ?」


「20万貫が熱田と津島商人の取り分で40万貫が津田家に入ってくる予定です」


「そうかそうか! しかし経済で遠江を取ると言った時には何をするかと思ったが、経済で弱体化した今川を外交で孤立させるとはな……鶴この功績は大きいぞ! 遠江を確保したら遠江半国……10万石を理由を付けて与える。北条や武田と接する故、東の守りを任せるぞ」


「知多の領はどうされますか?」


「いや、鶴に与えたままにする。自由にせい。他の家臣も北条と武田と接している領地は欲しくは無いだろうからな」


「わかりました。遠江を切り取れるように頑張ります」


「うむ、でもそうなれば東海3国の覇者か! 親父殿を超えるな」


「信長様は天下を狙うので?」


「天下か……鶴の考える天下とはなんぞや」


「日ノ本全ての国を従属させ、武力を持って統一することでしょうか。権威は後からどうとでもなります。南蛮人が来るようになっておりますが、前に渡した地球儀……あれのように日ノ本は小さい……日ノ本の拡大を狙うべきでしょう」


「となると中華と敵対することにならぬか?」


「中華の様に進んだ文明があるところは厳しいでしょうが……地球儀ありますか?」


「うむあるぞ」


 信長から地球儀を借りて東南アジアやオーストラリア大陸を指差す。


「狙うならこちらでございます。中華よりも人が少なく、米も豊富に穫れる。日ノ本を拡大したとなれば大和政権以来の偉業となるでしょう」


「うむうむ! 鶴と話すとやはり楽しいな! 夢がある! となると畿内に進むべき準備をしておく必要があるな。六角や三好は手強いらしいからな。朝倉は守護様(斯波)の大義的にも戦わねばならぬ。となると浅井辺りを調略するか……いや、その前に将軍に織田家が尾張、三河、遠江の統治に対して認めてもらわねばならんか……斜陽とはいえ将軍は将軍、使える権威は使わねばな。朝廷工作も進めるか……今回稼いだ金でなんとでもなるか!」


 信長様はすぐに図面を頭の中で描き始め、遠江攻略後は西に目を向けていかなければならないなと思うのであった。


 まぁ多分俺は遠江で留守番になるだろうがな……。


「信長様、私が遠江に移るとなると信長様を支える人が減ると思われるので私の義弟である秀吉と秀長兄弟を側仕えとして使ってはもらえませぬか? 知多の領地も彼らに相続させると思うので」


「……よかろう。あの猿顔のヤツであろう? こき使ってやるわ」


 というわけで秀吉と秀長は信長様のそば付きに推薦するのだった。


 秀吉と秀長兄弟は俺から離れることを嫌がったが


「信長様の下で出世してみろ! 秀吉と秀長で国持ちにでも出世できれば農民上がりが親族同士で東西に大きな家持ちになれるかもしれないんだぞ! 秀吉も秀長も俺の下ではなく俺をこき使うくらい偉くなってみろ!」


 そう発破かけた。


「家操アニキ! 俺絶対に偉くなるから! 任せてくれ!」


「ぼ、僕も! 頑張るよ兄ちゃん!」


「その意気だ!」


 こうして2人を信長様の所に送りつけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る