1552年 家操19歳 砂糖の量産 火薬庫の三河

「水を散布して木を叩くと原理はわからぬが椎茸の生える量が増えるらしい」


「ほう、流石家操様、物知りですなぁ」


 石川数正と椎茸栽培について話しながら領内を巡ると、昨年と同等かそれ以上の豊作の田畑が並んでいた。


「絶景ですな。今年も豊作のようで」


「ああ、今年は税は4公6民だが、これなら皆喜んで支払ってくれるだろう」


 収穫の事を話しながら数正に織田家の事を話す。


「三河で一向宗の者達が織田家の影響力が低下し始めていると聞いて動き始めていると聞いたが」


「私は吉良様達が暗躍していると聞いていますが」


 三河には足利一門衆の吉良家の領地があり、南三河一帯を支配していた。


 織田家とは中立関係であるが、今川とも血縁関係があり、それを通じて今川方に転ぶ可能性もある。


「吉良様が動くと織田家の三河統治に影響が出る可能性も高い。ただ信長様からは金を稼げとしか言われてないからなぁ」


「金を稼ぐとなると家操様がどこからか持ってきた茶器を売るのですか?」


「ああ、現物限りだが銭ゲバ坊主達から資金を巻き上げねば……俺が肥やしてしまったからある程度吐き出させないと」


 俺が言う茶器はホームセンターにあった1個数百円の皿や湯飲みだが、均一の取れた形が坊さん達には受けて1個に数貫の値段が付いた。


 信長様には大陸の安物茶器と説明し、幾つか渡しているが、お湯の温度が下がらない魔法瓶の方が気に入っており、湯を沸かし、それを魔法瓶に入れて次の日でも暖かいお湯が出てきた事に驚き


「一級茶器のどの品よりもこの湯入れは格別じゃな」


 と俺にあるだけ出せと言われたので在庫の殆ど(100個ほど)を提出した。


 まだ茶の湯が広まる前なので価値は微妙であるが、どこでも暖かいお湯が飲めるのは格別と水筒型の魔法瓶を信長様は愛用した。


「これどこで手に入れたのだ?」


「いや、旅の商人から流れてきたのでなんとも……現物限りなので大切に使ってくださいね」


「ああ、わかっておる」


 なおこの魔法瓶を渡したことで後々領地の加増理由になるのだった。


 また、茶の湯が広まりだすとこの1個1500円程度の魔法瓶が城1つと交換になるくらい高価と千利休等の茶人達が査定し、歴史家達も現代の魔法瓶と遜色ないオーパーツの扱いに頭を悩ませることになるのだった。








 信長様が魔法瓶でルンルンしている頃、俺の方も収穫でルンルンしていた。


 米の作付面積を少し減らした代わりに大豆やホームセンターにあった落花生、相変わらずの芋類、綿花や茶葉等の栽培面積を増やして換金作物の栽培を推奨した。


 で、買い取って様々な物に加工して売るのは勿論だが、養鶏が増えてきたので村民や町民にも食材として卸して、市場では焼き鳥屋とか鶏料理屋が建ち並ぶ様になり、鶏ブームが到来していた。


 お陰で増やした鶏をそのまま庭先に鳥小屋を建てて売る者が出てきたし、食材のカスを与えれば卵を産んでくれるし、卵を産まなくなったら絞めて肉にすれば良いので好まれた。


 で、鶏を飼う家が増えると野犬が狙い始めるので、兵達の鍛錬を兼ねて野犬狩りを行ったりもする。


 兵達を鍛えながら、俺は来年の米転がしに向けた準備を開始するのだった。


 まずは秋で相場の下がった米を相場が崩れない程度に各地から買い取る。


 それこそ畿内から関東の米を大黒兄さんや商人に扮した忍びに集めさせ現物を確保する。


 今年の余剰利益と貯金を合わせた約3万貫で約4万石程の米を集め、備蓄した。


「信長様、米転がしって金稼ぎをやるんですが一口噛みませんか?」


「なんだ詳しく聞かせろ」


 信長様にも米転がしに誘い、戦で使わなければ来年古米を5万石分は売買しても良いという権利を今回の魔法瓶を渡した代わりに得ることができた。


 これで9万石。


「ふーむ、まぁ初動はこんなもんか」


 俺はこれ以上はまだ動けないと判断して一旦準備を切り上げ、裏作の準備を始める。


 村長達を集めてニンニクやキャベツ、砂糖大根ことてんさいの栽培方法を説明して小麦の他にもこれらを肥料を撒いてから作っておけと説明する。


 あとはじゃがいもも。


 てんさいが収穫できれば超高価な砂糖を生産することができ、だいたい3.6キロで1貫である。


 てんさいが1キロから160グラムの砂糖が取れるし、残りカスは家畜の餌になるので無駄が無く、田んぼ1枚1反で肥料を撒いて普通に収穫できれば6トンは収穫できる。


 つまり1反で960キロの砂糖が収穫できることになる。


 金額に直すと267貫。


 あれ? 少なくない? と思うかもしれないが、1貫で現代換算で12万であるのと、1反だけの作付けではなく50反くらいでやるため約50倍……1万貫超えの利益を叩き出せる。


 しかも昨年の大寧寺の変(大内義隆が陶に反乱起こされて亡くなった事件)により大陸との貿易がストップしてしまい、新しく銭が入ってこなくなってしまっていたので、銭の価値がこれからどんどん上がっていく事になる。


 信長様に頼んで独自通貨の発行をしてもらいたいものである。


 鐚銭(悪銭)も増えていくだろうし……。


 まぁ中央政府崩壊かつ明の貨幣が使えなくなったことで日本は米を単位にしてしまうんですがね……。


「砂糖利権だけで1万貫……これで更に領地改革が進む進む!」


 砂糖作りも油の精油施設を転用すれば良いので楽だしな。


「春に砂糖を売れれば1万貫で更に米を買うことができる……現物が10万石に達するな」


 更に集める必要があるがやれるだけやってみよう。








「ほむほむ、なるほど」


 近隣の情報を詳しく調べてみると各勢力の動きが少しずつ分かってきた。


 まず尾張は清洲織田家は先の戦でうつけの信長に大敗したということで求心力が大幅に低下し、守護である斯波義統が信長と連絡を取ろうと動いていることが判明した。


 これが原因で清洲織田家は守護を殺害するという謀反を起こすのであるが、信長様が清洲織田家や岩倉織田家を滅ぼすのに好都合なので、この動きは放置。


 信長様から下手に動くなとくぎさされているからね。


 岩倉織田家は清洲織田家の勢力が低下したが、信長の力が強まったことでビビって特に大きな動きはしてない。


 尾張にいる織田家一門衆(信長の兄弟達や信光叔父さん)等は信長様の能力を認めている方が多く、下剋上を狙う動きは起こってない。


 信長様は清洲織田家をロックオンしており、各勢力を調略中。


 あとは親衛隊の規模を更に拡大し、俺の職業兵方式を採用し、兵の常備兵化を進めているらしい。


 資金源は熱田や津島の商人からの献金と俺の農法が広まったことで豊作が続き、税収に余裕ができているからである。


 兵も俺が管理している尾張鉄砲組合(代表幸之助)から安く大量に鉄砲を織田家に供給してもらっているので兵の人数に対して鉄砲が多く、長槍兵と鉄砲兵、その他で1:1:1の比率である。


 信長親衛隊(即応兵)は現在1500名程だが、練度は尾張兵の中では高かった。


 美濃は特に大きな動きは無いが斎藤道三の内政能力を疑問に思う家臣が多く居り、家臣統制が不十分であるという情報が得られた。


 三河は大きな勢力は5つ、織田家、水野家、吉良家、一向宗、今川家である。


 一番勢力を有しているのが織田家で約15万石から20万石を有しており、西三河、奥三河を統治下に置いていたが、信行の評価は家臣の中では信長様よりはマシであり、決して高いとは言えなかった。


 信行様の性格は真面目な臆病者であり、重要な戦でも戦場に出てこないのが臆病者と言われる由縁だ。


 ただ信長様に対しては対抗心丸出しで三河の分離独立も辞さない構えで織田弾正忠家の家長として書類を発行したりしている。


 そして三河を自分の領地として自身の味方をする家臣に配り始めており、織田信広は最初信行と関係が良好だったが、信行様が命じた山口親子討伐を完遂できなかったからと領地没収を断行しており、織田信広は信長に尾張で城を与えられて一息付けたが、この一件で信行を恨む様になっていた。


 織田信広は織田家兄弟の中では今川軍を2度撃退したことで有能とされていたので織田家家臣の中には血筋さえ良ければ織田信広様で家長は決まりなのにと嘆かれる程人望もある人なのに信行は家臣に言われるがままに領地没収をして一門衆から評価を押し下げていた。


 尾張東部と三河西南部に所領がある水野家は信長様に友好的中立で、織田家の争いには関与しないことを明言。


 三河南部の吉良家は今川寄りの中立。


 三河一向宗は守護使不入の特権の剥奪で織田信行を恨んでいるし、今川家は対北条で忙しいものの、松平旧臣や残った国人衆、三河織田家家臣の調略を進め切り崩しを行っていた。


 ただ調べてわかったが、三河一向宗は決して今川の統治や松平の再びの統治は望んでおらず加賀一向宗の様に一向宗による国家運営を望んでいた。


 そのため全方位に殴りかかる危険性があり、俺が綿花栽培で結構な利益を与えてしまい、茶器を売りつけることで、ある程度は回収したとはいえ、武器や兵糧の備蓄は十分であった。


 現代の中東、少し前のユーゴスラビアとかに近く、宗教と武士の家柄、各々の目標がバラッバラなので火薬庫となっていた。


 これ、どこかが動いたら大爆発するなぁと俺は情報を聞いて遠い目をするのだった。

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