1543年 家操10歳 石鹸

「鶴、あれが食べたい。店の者と交渉してこい」


「はい!」


「鶴、暇だ! 何か面白いことをしろ」


「では能の踊りを1曲」


「鶴、鶴、鶴」


「き、吉法師様〜……」


 吉法師様の愚連隊の一員になった俺は吉法師様からの無茶振りに耐えていた。


「鶴、お前よく耐えるなぁ」


「勝三郎様、いやいや、吉法師様の手足となれて鶴めは楽しいのでございます」


「そうか……しかし悪いなお前もそんなに金持ちじゃないのに吉法師様の言う物を買わせてしまって」


「勝三郎様、俺も生活があるので少し出していただけないと辛いのですが……」


「うむ、熱田の兄者に相談してみるとするか」


 勝三郎という人物は吉法師様の乳母兄弟で後々池田恒興と呼ばれる人物であり、農民出身で愚連隊の面々の殆どが俺を人と思わない中で人として扱ってくれる人だった。


 ちなみに吉法師様は俺を愛玩動物程度の扱いをしている。


 あと鶴という名前の由来は鶴の様に首から上は小顔なのに、胴体は大きいからということらしい。


 まぁ気に入った部下にあだ名を付ける吉法師様らしいといえばらしい。


 吉法師様から色々無茶振りをされるが、愚連隊のほぼ初期メンバーに転がり込めたので初期メンバーにはペコペコしているが、後から入ってきた者に人扱いされなかった時は関節技を決めてどちらが上か分からせたりもした。


 そんなある日、俺は吉法師様の無茶振りで面白い物を探してこいと言われたのでホームセンターになぜかあった地球儀を引っ張ってきて


「吉法師様、この世全体の地図です!」


「なんだこれは? 球に絵柄が描かれている?」


「これは地球儀と言って世界は丸く日ノ本の位置等も描かれています!」


「おいおい鶴! 世界が丸いわけないだろ!」


「そうだぜ鶴!」


 周りはゲラゲラ笑うが、吉法師様だけは真剣にこれを眺め


「して、日ノ本はどこじゃ?」


「こちらでございます」


 と日本の位置を指さした。


 吉法師様は日本の小ささに驚き、周りはそんなこと無いだろうというが、中華の大きさを指し示すと確かに中華がその大きさなら日ノ本はこれぐらいの大きさかもしれないと皆信じ始めた。


「鶴、これは良い物を見つけた。詳しく話を聞いても良いか?」


「ええ、俺のわかる範囲でしたら」


 そう言われて、吉法師様に連れられて那古野城に入り、吉法師様の自室で地球儀を回しながらここにはどんな国があるのかとかを色々と聞かれた。


 俺はわかる範囲で答えるのだった。


 俺は更に紙に日本地図を描き、だいたいの織田家の勢力を円で描いた。


「うむ、世界は広いのだな。そしてこんな小さな国の中のこの一部の地域だけで争いが絶えないのか……」


「吉法師様?」


「面白い。鶴、お前は農民出のくせに物知りだな! 褒めて遣わす! 何か褒美を取らせたいが何がいい?」


「でしたら熱田の海の物を取る権利をください。金になる物を作れれば愚連隊の者にも金を渡せると思うので」


「うむ、なら熱田宮司の息子の千秋季忠に会いに行こうぞ」


 千秋季忠は熱田神社の宮司の息子で熱田に強い影響力を持つ人物で、吉法師様の悪友でもあるが、立場的になかなか一緒に遊ぶことができず、俺が来る前からちょくちょく熱田神社の敷地で一緒に遊んでいた人物らしい。


 その人経由で宮司の父親に頼み、吉法師様と連署であればしがらみの多い海でも海産物を取っても怒られないという寸法だ。


「明日熱田神社に行く! 熱田神社にて集合な」


 と吉法師様に言われるのだった。







 午後の時間が空いたので五位様に吉法師様に気に入られた事、愚連隊に入れてもらえた事を話す。


「そうか愚連隊の方に入ったか……もう少し待っていれば那古野城の小者として給金が入る立場にできたのだが……」


「それなのですが、海で産物を採れる許可が降りそうなのでそれで一儲けできそうなのでね」


「家操は凄いな、よくもまあそんなにポンポンと金策が思いつくと思うわ」


「まぁ今の愚連隊では金が出ないのでね……流石に無賃金だと智にも悪いので……」


「智は儂がしっかり教養を叩き込んでおいてやる。少し金策に噛ませろ」


「ええ、勿論です。五位様の後ろ盾があれば商品もよく売れるでしょう……もしよろしければ五位様の畑で芋を育ててもよろしいでしょうか」


「かまわぬがどんな芋じゃ?」


「馬鈴薯という芋で芋から生える芽に腹痛を引き起こす毒があるのですが、それを取り除けばとても美味い一品が出来上がるのです」


「ほほう」


「それに腹痛に効く薬の片栗粉がその芋からは大量に採ることができるので薬としても売ることができますし、残ったカスを集めることで料理にも使うことができるのです」


「ほほう、それは良い物じゃな。儂の屋敷の畑の一部を使うと良い」


「ありがとうございます」


 その日のうちに馬鈴薯ことじゃがいもを植えるのだった。





 翌日、吉法師様や愚連隊の面々と一緒に熱田神社に向かい、千秋季忠様と出会うことができた。


「吉法師様、久しぶりですね」


「おお、亀、久しいな」


 ちょっと猫背でガタイが良いので千秋季忠様は亀と吉法師様から呼ばれていた。


「本日はどの様なご要件で?」


「お前と遊びに来たのと愚連隊の人員が増えたからな! その報告と、こいつ家操で余は鶴と呼んでいるが、面白いやつでな! 褒美として熱田の海の幸を取る権利を求めてきおった」


「確かにそれなら私の父親の許可が無いと吉法師様の許可だけでは厳しいですね。父を今呼んでいます」


 千秋季忠様が父親を呼んでくると、吉法師様が事情を説明し、素潜りで取れる範囲であればと許可が下りた。


「そうじゃな! 今日はそのまま海で遊ぶぞ! 水遁の鍛錬じゃ!」


 吉法師様は皆を連れて海へと向かうのだった。








 吉法師様達が海で遊んでいる間に俺は漁業組合みたいな立場の人と話していた。


「貝殻と海藻、それにタコなら全然取っても良いぞ。魚は取らんのか?」


「それは漁師さんから買い取った方が安いですし、俺は別に漁師さんの利権を侵したいわけではないので……」


「海藻が何の役に立つか分からねぇが金になるなら手伝うが」


「ありがとうございます。金になるかどうか試してからになりますが、金になるとわかれば声をかけますよ」


「おう、皆が皆坊主みたいに話がわかるやつだと良いんだがな」


 というわけで海藻とかを取る権利を得ることができた。


 ただ久しぶりに泳ぐのである程度は泳ぐ鍛錬をしなければならないだろう。


 なので浜辺に落ちている貝殻や海藻を集め、貝殻は袋に詰めてホームセンターの駐車場に丸投げし、海藻は燃やして灰にしてから袋に詰めた。


「なにをしている?」


「吉法師様、見ての通り海藻を燃やして灰を作ってます」


「それが何になるのだ?」


「この灰と油を混ぜると石鹸になるのですよ」


「石鹸だと!? あの高級品のか」


「はい! 上手くできれば金になるとは思いませんか」


「確かにそれならば金になるな……よし、皆の衆海藻を集めるぞ!!」


「「「おう!」」」


 愚連隊の皆が手伝ってくれたお陰で海藻が山のように集まり、俺はそれをどんどん灰にしていった。







 吉法師様に石鹸作りで数日は愚連隊に参加できない事を話し、俺は熱田周辺の椿から実を集めて椿油を作った。


 この時代椿で油ができる事は知られておらず、観賞用として庭に植えられているのが多かった。


 なので椿の実が欲しいと椿の持ち主に許可を取り、謝礼を支払えば椿の実を採ることは容易かった。


 それを長屋の前で天日干しにし、水っけがなくなったら種を取り出し、蒸して一晩冷やしてから石臼ですり潰していく。


 すると油が出てくるという寸法で、出来上がった油はホームセンターで貯めておく。


 ただ吉法師様がそんな呑気に成果を待ってはくれないと思うので、ホームセンターにある食用油を代用してそれで石鹸を作っていった。


 型に原液を流し込んで一晩冷やせば石鹸の塊ができるので、それをカットして吉法師様の所にサンプルを持っていった。


「確かに石鹸だな」


「はい。これを使えば魔除けになりますし、食事の前にこれを使って手を洗うことで腹痛の予防や病気の予防にもなりまする。体を洗うときにもこれを使えば綺麗に汚れを落とすことができます」


「そうかそうか! 実際に試してみようではないか!」


 吉法師様は井戸の近くに移動すると素っ裸になり、俺がタオルで洗い始める。


「おお、泡が立っておる」


「気持ちいいですか?」


「こそばゆいな」


 髪の毛もシャンプーがないので石鹸で汚れを落とすとピカピカの吉法師様の出来上がりである。


「うむうむ! 体にハリが出てきた! これは良いな! 気分が良い!」


「もし売るなら織田家公認として石鹸に織田家の家紋の焼印をしようと思いますが」


「どれぐらいで売れると思うか?」


「この大きさ(市販されているサイズの石鹸)で1貫程度なら飛ぶように売れると思われます。愚連隊の中で人員を貸してくれるなら作り方を教えて量産したいと思いますが」


「よし! やるぞ。売上は期待しているぞ」


「はは!」


 というわけで椿油ができるまでに愚連隊から数人を借りて石鹸の作り方を教える。


 教えている間に漁業組合のおじさん達に海藻を1斤1文で買い取りたいということを伝え、協力してもらい、油屋にも声をかけておいた。


 椿油は椿の総量的に限りがあるので足りない分は油屋からの油で代用する。


 そして椿油で作る方が香りが良いので少し値段に差を付ける。


 あとは千秋季忠様や大黒の兄さんに石鹸のサンプルを持っていって熱田神社のお土産として売りたいことや、津島では大黒兄さんに卸して売ってほしい事を伝えた。


 熱田神社には場所を借りることと売上の一部を奉納として納めると伝えると許可され、大黒兄さんも石鹸ならどんな物でも売れると1個500文で買い取ってくれることになった。


 代わりに大黒兄さんには椿の実を集めてほしいということも伝えて、安く石鹸を卸す代わりとした。


 最初は普通の油で愚連隊のメンバーと石鹸を作り、1つ1つ織田家の家紋の焼印を付けていく。


 大黒兄さんに卸す分には焼印を付けない物も作り、早速売り出すと、それはもう飛ぶように売れた。


 直ぐに商人達が集まり、卸して欲しい事を伝えられ、石鹸座なるのもができ、座に加入している商人に卸す事となった。


 そこに椿油で作った石鹸も売り始めると石鹸ブームと呼ぶべき物が起こり、俺らにも莫大な利益が出たし、熱田や津島でも多くの商人が潤った。


 そして元締めの吉法師様にも大金が転がり込み、それを愚連隊拡充の資金としていくのだった。


【信長の評価がググンと上がった 信長から人と見られるようになった 熱田商人の評価がグググンと上がった 津島商人の評価が上がった 熱田神社の評価が上がった 愚連隊のメンバーから人と見られるようななった】


【実績 石鹸工場長を獲得】

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