1543年 家操10歳 たこ焼き

「家操! 流石ね! 最初は不安だったけどもうこんなに儲けるなんて! 中村の神童の名前は伊達じゃないね」


「智も石鹸作りに協力してもらって悪いな」


「いいのよ! 旦那を支えるのが妻の役目だしね!」


 長屋で智と一緒に生活しているが、最初は俺が五位様の小者と知って色々手伝ってくれたおばちゃん達も、俺が愚連隊に入ると少し距離を置かれたが、金を稼ぎ始めると再びすり寄ってくるようになった。


 お陰で智は長屋の主婦さんの中でも若いグループに入ることができているらしい。


「五位様にも良くしてもらって助かってるよ」


「そうかそうか! 俺は吉法師様の下で出世できるように頑張るからな」


 まだおセッセはできないので一緒に布団で眠るのだった。






 織田信秀は部下から吉法師の評価を聞いていた。


「愚連隊を率いて町を練り歩く様になったのはどうかと思いましたが、最近だと部下を使って石鹸作りをするようになったと聞いております」


「ほう、確かに儂の元にも石鹸が吉法師から届いたが、吉法師が部下を使って作らせた物だったか」


「はい、その金を使って愚連隊の人数を更に増やしているとも聞いております……信秀様いかが致しますか?」


「自由にやらせろ。吉法師ならば金の使い方をよく理解できるだろう。織田家の原動力が金であることを理解できる者が織田家を纏められる者だ。妻は弟の方を溺愛しているがな」


「そうそう、その石鹸の責任者をしている者は五位様の小者らしく、神童と呼ばれるほどの知見を得ているそうで」


「ほう……そやつが吉法師と繋がったか。面白い。五位様にお礼をしなければな。吉法師の良き部下になるなら良い」


「はは!」


【織田信秀から認知された】









「よぉ石鹸屋の坊主! 海藻また取れたぜ!」


「漁師のおじさんありがとうございます!」


「それとほれ! タコが獲れたぞ」


「おお、生きのいいタコですね! ちなみにどれくらい獲れますか?」


「漁の時に網にたまに引っかかるくらいだからな。漁師は食べるが、市場に流せる物じゃねぇぞ」


「うーん、そうですか……タコで美味しい物を作ろうと思いまして」


「そうか……タコなら1匹10文で良いぞ」


「ありがとうございます。とりあえず吉法師様にまず食してもらいますが、売れるようになったら漁師さんたちにも食してもらいますからね」


「おう! 楽しみにしているぞ!」








 というわけでたこ焼きを食べるために色々と準備をする。


「ソースは中濃ソースでいいか。材料が唯一揃えられるものだからな。砂糖の代わりに蜂蜜使うけど」


 中濃ソースの材料は玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにく、りんご、生姜、煮干し、塩、酢、トマトに各種スパイスと唐辛子である。


 各種スパイスは正直難しいが代用品を使えばいけるだろう。


「いや、厳しいなら鰻のタレの方が良いか?」


 醤油、みりん、酒、砂糖でできる鰻のタレの方が代用が効きそうである。


「醤油は味噌屋のたまり醤油で、みりんは無いから酒と蜂蜜で代用すればいいからな。蜂蜜は高いけどそんなに量は使わねぇし、中村や大黒兄さんと協力すればいけるな」


 とりあえず今回はタコの刺身を味わう。


 味噌屋に行き、味噌を作る時に出るたまり汁をもらえないか交渉すると、それでよければいくらでもやるよと言われたので1升10文で購入した。


「ほう、タコの刺身か」


「ええ、これにウリを入れると面白い食感になりますし、秘伝のタレでご賞味くださいな」


 タコキュウリもどきだが、吉法師様は気に入ったようでバクバクと食べていく。


「米が欲しいな!」


「用意してありますとも」


「おお! 気が利くな!」


 その様子をみていた愚連隊のメンバーにもタコキュウリもどきを渡していく


「美味い美味い!」


「タコは初めて食ったが美味いな!」


「タレが良い! 味噌の風味がするが決して味噌では無い……なんだこれは」


 そう言いながら勢いよく食べる。


「美味かった! これを城でも食べられるようにしたいが!」


「じゃあ城の料理人にも伝えますよ。ただタコがたまにしか手に入らないらしいのでそれは理解してください」


「うむ!」


 吉法師様の命令で那古野城の料理番の井上さんを訪ねた。


「ほう、味噌のたまり汁を使うとこの味になるのか」


「ええ、吉法師様もタレを褒めていましたのでこのタレは魚や肉料理にも使える万能タレです。井上様なら様々な料理を思いつくかと」


「うむ、確かにこれならば吉法師様の喜ばれる料理を色々思いつきそうだ。感謝するぞ」


「はい、味噌屋曰くたまり汁は1升10文らしいので、もし買い付ける事があれば俺が量の交渉をしてまいりますが」


「うむ、そうだな。雑務をしてくれるなら助かる」


 こうしてたまり醤油やタコに関しては俺が那古野城の分も買い付ける事になった。


 次に俺は蛸壺作りに取り掛かった。


 石鹸で得た利益の一部を使い、那古野城下の木工屋に頼み、木の板を組み合わせた蛸壺を作ってもらい、それを漁師に渡した。


「この蛸壺の中に魚の切り身を入れることでタコがかかります。タコは壺の様な物の中に入ると安心して眠る事が多いのでこれで引っかかると思います。吉法師様もタコが気に入ったので1匹20文で買い取るとおっしゃってくれました」


 漁師達もおお! と喜ぶ。


 若様が喜んでくれるし、城からの買い付けなら売れ残るというのが無いからだ。


 それに餌も地引網で獲れる小魚の切り身でも大丈夫と言うと喜ばれた。


 ある程度の大きさが無いと、小魚は肥料として買い叩かれるので、その小魚を餌に高いタコを捕まえられるとなれば漁師達も金になる。


「本当にこれでタコが釣れるのか?」


「俺も確信は持てないが、タコの性質的にこれでいけるはずなんだよなぁ。駄目だったらまた考えますし、手間賃として少し払います」


 そう言うと漁師達は蛸壺を使ってくれた。


 で、翌日様子を確認すると、15個蛸壺を仕掛けると、14個にタコがかかっていたらしい。


「こりゃすげぇや! タコが恐ろしくかかる」


「とりあえず全部買い取りますのでいいっすかね」


「おう! 買ってけ買ってけ!」


 流石に全部のタコは捌ききれないので、海水を入れた水槽の中にタコを入れ、ホームセンターの中に放り込んだ。


 俺が居なければ時間が止まるのでタコを生きた状態で長期間保存ができる。


 早速井上さんにタコとたまり醤油を届ける。


「タコのヌメリは大根おろしを使うと取れますよ」


 ヌメリやタコを〆る方法を教え、井上さんはそれを直ぐに吸収して料理を作っていく。


「タコウリだったか、こりゃあ美味いな。吉法師様だけでなく他の方も喜ぶであろう」


「それなら良かったです」







「ほう、タコウリか! 鶴のやつ早速井上に教えたな」


「吉法師様! このタコウリ美味しいですな!」


「余よりも早く食うな小麦や!」


「えー、別にいいじゃんか」


「これは余の部下に頼んで城でも出せるようにした物なのだ! 一番に食う権利は余にある!」


 小麦と呼ばれた吉法師の姉は信秀の庶子の1人で、歴史資料には女としか書かれていない姉妹の1人であった。


 母親の身分も低いので今は母親共々吉法師の那古野城にて生活をしていた。


「最近何かと鶴鶴と連呼していたお気に入りの部下ですか?」


「ああ! 鶴は面白いぞ! そのうち那古野で働かせてやるからそれまでは待て」


「はーい」


 知らないうちに鶴こと家操は那古野城で働かせることが決まるのだった。








 数日後、鰻のタレが完成したので小麦を挽いて小麦粉にして海藻を買い取った時に昆布も付いてきたので昆布で出汁を取り、卵の代わりに繋ぎとしてとろろ芋を入れ、生地を作り、タコも用意して愚連隊のたまり場に持っていった。


「吉法師様、タコを使った新しい料理ができました! 名付けてたこ焼きです!」


「ほう、どんな物だ?」


 俺はたこ焼きの鉄板を石を積み上げた窯の上に置き、鉄板を温め始めた。


 油を塗って生地を流し、生地の中に1つ1つタコを入れていく。


「よっ! よっ!」


「「「おお!?」」」


 たこ焼きをホームセンターにあったたこ焼き返しでひっくり返す。


 綺麗な金色の焼き色になり、良い匂いも漂ってくる。


「へい、お待ち」


 皿に盛り付け、鰻の代用タレをかければ完成である。


「熱いので火傷に気をつけてくださいな」


 そう言い、吉法師様に渡す。


「拙者が毒味を!」


「お前食いたいだけだろ」


 そんなやり取りを鈴村という古参の愚連隊員と岩瀬という愚連隊員がしたりしながら、まぁ待てと吉法師様が食べる。


「熱々……うまい! うまいぞ! これは美味い!」


 吉法師様に続いて愚連隊員も焼き上がったら次々に食べていくが皆美味い美味いと食べていく。


「タレも前のより味わい深くなり少し甘いのが良い」


「おお、タコが何とも良い食感を与えてくれる」


「あち! あち! でも美味い!」


 愚連隊員からの評価も良くこれを定期的に食べることはできないかと言われる。


 流石に武家の子供にたこ焼き屋台をやらせるのは面子的に難しいのがあったので、中村で部屋住みとして燻っていた兄ちゃん(伊達ではなく近所の人)を連れてきてたこ焼きのやり方を教えて熱田で俺の部下ということで熱田神社の一角で売り出し始めるのだった。


 10個で15文で売り始めたそれは原材料や場所代で1個1文かかるものの飛ぶように売れて、毎回タコが無くなって売り切れる始末。


 ちなみに小麦の調達は大黒屋の熱田の方にお願いしたり、そこからグレードアップした鰹節を1文追加でまぶしたサービスを始めたりもした。


 タコが入り、晴れた日限定ながら平均して200食売れ、屋台の兄ちゃんの人件費で売上の半分は渡すが、それでも1日で500文の利益を出せるようになった。


 真似したくてもタコは吉法師様が全て買い取ると宣言されていたので真似したくても真似できず、タレの材料も不明で模造品ができずに俺にとってのドル箱となるのだった。


【漁師の評価が上がった 井上料理長の評価が上がった 那古野城の人々の評価が上がった 熱田の町人の評価が上がった 愚連隊員の評価があがった 吉法師の評価があがった 熱田神社の評価があがった】

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