第2章・真紅の呪い 1ー②

王城と変わらないような巨大な城は、最早、城というよりは宮殿だ。

湖に反射する城影はノスタルジックではあるが、水面に囲まれるようにして浮かぶようにして建ち、まるで敵からの攻撃を阻む要塞のようですらある。

城へ渡る為の吊り橋を降ろされ、城に入った途端、エドガーは執事を筆頭に数十名の侍女に出迎えられた。

それにはまるでこの城の主であるか、招待された客人のような気にさせられる。


執事に案内されたエドガーへ与えられた部屋は、想像以上に広く、豪華なものだった。

置かれた調度品の数々は、美術的に価値のあるものだと素人目にも分かるものだったし、絨毯や壁紙も明らかに新調されていた。

あまりに過剰なそれには、執事へ部屋替えを申し出る程だった。


「俺は、ここにロミルダ様の護衛をする為に呼ばれたんであって、ここまで歓待される意味が分からないんだけど」


「エドガー様には、ロミルダ様に最も近い場所にという指示がございましたので、ロミルダ様の部屋の隣に」


「え?この隣がロミルダ様の部屋?!それって不味くないか?!」


「それだけ、ロミルダ様が貴方様を信用しておられる証拠かと」


豪華な仕様だと思ったが、まさか主の隣の部屋だとは思わなかった。

ともすれば、ロミルダと変わらないグレードの部屋かも知れない。

この異様なまでの高待遇には、『本当に自分は護衛の為に呼ばれたのか?』『もしや、これは罠ではないのか?』とまで深読みして考えてしまった。


これまで、どれだけ『真紅の髪の姫』に虐げられて来た事か。

友人のように親密になった後、惨殺された時もある。

『私は身を引くから』と言って、騙され、売り飛ばされた事もある。

そうした過去の凄惨な出来事の数々が、疑心暗鬼にさせた。


退室しようとする執事を、エドガーが引き止めようとするのと同時に、何十人もの人間が部屋に入り込んで来る。

それには再び部屋へ押し戻されてしまい、後に倒れるようにしてカウチに座らされてしまった。


「さぁ!エドガーに合わせた服を作るぞ!」


「ロミルダ様?!」


「何を呆けている。お前には、私の隣にいても釣り合うような、正装を用意しなければ」


「ちょっ……ちょっと待って下さい!護衛の俺に、そんな大層な服は必要ないです!それよりも動きやすさを優先した……」


「お前は、乞食のような格好の男を、私に連れ添わせるつもりか?」


「そ、そうではなくてですね。隣に立つ訳ではないんですから……」


「隣に立つに決まっているだろう。傍に付いて私を守る為には、パートナーになるしかない」


休みなくロミルダを監視し、その命を守る為にある程度の犠牲を払わされる覚悟はあったし、プライベートの時間はなくなるかも知れない位には思っていた。

だがまさか、自分が天下の大公女閣下のパートナーという大役を任されるとまでは思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る