第2章・真紅の呪い 1ー③

「パートナーなら、婚約者のヴェンデル様にお願いするのが筋なのでは……」


「ヴェンデルには、結婚するまで精々自由を謳歌しろと言ってある。結婚したら、嫌でも私に縛られるからな。だからこれまで浮名を流しても、許しているだろう?」


「浮名って……」


「深窓の令嬢を孕ませたとあっては流石に見逃せないが、娼婦や遊び慣れしたアバズレなら問題ない」


遊び慣れしたアバズレとは、ベッティーナ侯爵夫人の事を言っているのだろう。

ロミルダは、ヴェンデルの若気の至りを知っても許していた。

婚約者であるにも関わらず、自分以外の他の女へ盛るのを、見て見ぬ振りをしていたのだ。

それだけの大いなる愛情があるからなのか、自分の都合で待たせるだけ待たせて、遊びの一つも許されないのは可哀想だと思ったのか。


これまでの『真紅の髪の姫』なら、懐が深いと見せかけて、その実、裏では『王太子』を自分のものだけにする為に画策していた。

『私は愛されなくても良いのです』と言いながら、『王太子』に近付く者を徹底的に排除していた。


そう思えば、よもや自分ロミルダの傍に付けると見せかけて、襲わせたように装い、エドガーを貶めようとしているのではないか。

 これもエドガーを嵌める為の策略ではないのか。

ヴェンデルの周りの赤毛と言えば、ロミルダしかいないし、既に結婚するのも決まっている。


だとすれば、身を引き締めて護衛に徹するべきだ。

ほんの少しでも、自分がヴェンデルに気に入られていると知られる訳にはいかなかった。


「申し訳ございませんが、これからは護衛を最優先にするのを許しては頂けませんか?」


「それはもちろんだ」


「でしたら、俺に護衛以外の仕事をさせないで下さい。ロミルダ様も結婚式までは、不必要な動きをなさらないで頂きたい」


「私に指図するか」


「お傍は離れません。ですが、パーティーでダンスを踊るのは、ヴェンデル様だけにして頂きたい。ヴェンデル様なら、俺の代わりに貴女を守れるでしょう。今は誰が敵か分からない状況で、動き回られては俺も守りようがない」


エドガーは不敬になるかも知れないとは思ったが、それだけは言い切った。

だが、それには何故かロミルダのツボに嵌ったのか、大笑いされる。

これまで天下の大公女にそこまで言い返して来た者はいなかったらしく、「私の選択は間違いではなかった」と言って、エドガーの肩に拳を叩き込まれた。

それはロミルダなりの労いだったが、その女性とも思えない豪快さに、エドガーも絶句してしまう。


女傑とまで言われるロミルダには、これまで以上に手を焼くかも知れない。

何をしても、この女に勝てる気がしない。

大胆なるロミルダの本性を知れば知る程に、エドガーはこの先の不安も掻き立てられるのだった。

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