第2章・真紅の呪い 1ー①

ロミルダ・フリーデン大公女の、武勇伝を語らせたらきりがない。

そう言わしめる程に、彼女は国の象徴のような存在だった。

それは、シュテファニエ公国の国王を凌ぐものだった。


国王は元来、人柄が良いと言えば聞こえが良いが、悪くいえば無能だった。

無駄遣いこそしないものの、正妃の尻に敷かれ、側室に甘く、王子達を放置し、たった一人の末娘姫を溺愛していた。

だが、そうした国王の無能さがあったが故に、ロミルダは大公という地位以上の権力を有したのである。

家臣達は、何に於いてもロミルダの意見を聞くようになり、国王はロミルダが指示した案件に判を捺すだけの存在となった。


戦争が早々に締結したのも、その後、シュテファニエ公国があらゆる権利を手に入れたが故だったし、より富んだ国になったのも、ロミルダの手腕によるものであり。

また物資の流通なども、全てロミルダの考案したものが土台となり、シュテファニエ公国はかつてない繁栄を遂げていた。


そんな誰もが崇める女傑は、八つの頃にはもう結婚する相手が決められていた。

バルタザール公爵家の三男、ヴェンデルは生まれた瞬間に、『じきに大公になるだろうロミルダの元へ、婿入りさせる』と決められていた。

長男は後継ぎを作らねばならなかったし、次男も長男夫婦に子供が出来なかった場合を考えて、外へ出す訳にはいかず。

結果、多少年の差はあったが三男のヴェンデルが、ロミルダの夫に選ばれたのである。


結婚式は当初、ヴェンデルが騎士養成校を卒業し、騎士団へ入団してから、という予定だったが、ロミルダ自身が大戦の終結により後始末の実務に追われ、伸ばし伸ばしになっていた。

そしてようやく、両家において『年末の吉日に』と目処が立ったのだった。

だが、いよいよという時になって、ロミルダの周りで不審な事件が起こるようになった。

城に火を放たれたり、街を視察している間に襲われたりと、予期せぬ襲撃を受けた。

そこで護衛に、剣を持たせれば英雄ギュンダー・アーデルベルトと引けを取らないだろうという、息子のエドガーが白羽の矢が立ったのだ。


結婚式を終えれば、ヴェンデルとその配下の数名が、騎士団から大公家へと派遣される。

それまでの繋ぎとはいえ、若手でも最強の剣士と謳われるエドガーが傍に付いているとなれば、抑止力にもなる。


エドガー本人も、その期待に応えるべく意欲を燃やしていた。

これを終えれば、権力に縛られる事なく堂々と自由を得て、命を落とす運命から逃れられる。

そうしてエドガーは、意気揚々と訪れた大公の城の前で、唖然となっていた。

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