第1章・目覚め 4ー③

ふと、エドガーの脳裏に閃きが走る。

それは、自分の中で全く覚えのない真新しい記憶が、突然浮かび上がったかのような感覚だった。


ヴェンデルの婚約者であるロミルダは、真紅の髪色をしている。

それには、どこかで見たような既視感があった。


意思の強そうな『真紅の髪の姫』。

そのロミルダは、エドガーへ見せ付けるようにしてヴェンデルの腕に手を絡める。

ヴェンデルは一見、嫌そうに顔を顰めながらも腕を振り解こうとはしない。

その仲睦まじい様子に、エドガーは足元からガラガラと崩れていくような錯覚を起こした。


自分ではない、自分の記憶が蘇る。

かつて、『王太子このおとこ』を愛していた。

生まれてから二十年もの間、『王太子』の為に生きて来た。

彼への愛故に、どんな苦行にもめげず、王妃になる者の試練であると、歯を食いしばって耐えて来た。

だがその実、結婚するのは『真紅の髪のロミルダ』だったのだ。


そうして、四度の転生を繰り返す度に『王太子ヴェンデル』と両想いになるも、いつも『真紅の髪の姫』に奪われ、自分は命を落して来た。

その記憶が今、断片的に思い起こされる。


『ヴェンデルを愛してはならない』


そう本能的に感じていたのは、前世までの因縁が細胞内に組み込まれていたからだ。


幸運な事に、今世ではもう既にヴェンデルとロミルダの婚姻が約束されている。

あとは、自分がそれを邪魔立てするような事をせずに、二人から距離を置けば良い。

そして二人の結婚を現実のものとした後に離れれば、今世では殺されずに済む。


もう絶対に期待はしない。

自分の方が選ばれるなどと、夢を見ない。

結婚式まで、ロミルダの護衛を勤め上げて、堂々と去ってやる。

エドガーはそう決意した。


「ロミルダ様」


「何だ?」


「結婚式のご予定は、もうお決まりですか?」


「年の瀬の吉日の予定だが」


それは、エドガーが二十歳になる直前だった。

それを乗り越えれば、この呪いの輪廻から抜け出せる。

そう思うと、英気に漲った。


「では、ロミルダ様。その日、ヴェンデル様をお迎えするまで、この命に替えましても必ず御身をお守りします」


そう言って忠誠心を顕にし、腰に携えていた騎士の剣を両手でロミルダへと差し出して、頭を垂れた。  

だから、ヴェンデルの表情を見る事が出来なかった。

その悲しみに歪んだ顔を。

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