第1章・目覚め 3ー①
エドガーは困惑していた。
朝、起きたら隣には何故か裸のヴェンデルが眠っていて、しかも見るも明らかに『事後』だった。
自らの身体中には鬱血の痕が残っていたが、尻への違和感はない。
それには、最後までは致していないのだろうと確信する。
エドガーは慌てて服を来て、宿屋を飛び出した。
起きたヴェンデルに、どんな態度で接すれば良いのか分からなかったからだ。
昨日の記憶は途中から殆どないが、ヴェンデルも酔っていたのだろう。
そうでなければ、ベッティーナ侯爵夫人という美しい恋人がいるのに、男の中でもより男らしい自分などに欲情する筈がない。
きっと目覚めれば、一夜の過ちとして反省するに決まっている。
このまま、ヴェンデルに会わないようにして過ごし、騎士団へ就職しなければ良い。
元より、父の元からは離れたいと思っていたし、自分は物欲も出世欲もなかったから、騎士団には興味もなかった。
そうしてエドガーは、卒業後の配属希望欄に、『警備隊』の一択で提出した。
身の丈に合わない、ランクの高い希望は叶わない場合もあるが、学生時代、常にトップであり続けたエドガーの希望が通らない訳がない。
警備隊は、いわゆる市民を守る部隊ではあるが、その仕事の殆どが雑用だった。
戦争も終わったこの平和な時代、剣士があちこちで目を光らせているものを、わざわざ罪を犯す者は少ない。
故に警備隊も、酔っぱらいの介護や、違法に稼ごうとする娼婦の取り締まり、家の補修や庭の草刈りなどに駆り出される事が多かった。
当然、平民出の剣士ばかりで、貴族や王族を守る騎士ような豪華な隊服もなく、唯一の目印は胸元の隊章位のものだ。
だが、エドガーが卒業後は警備隊を希望していると知れると、教師達は皆、慌てふためいた。
公国の英雄の子が、何故、何の権威もない警備隊に入りたいなどと思うのか。
騎士ならばどんな転職も叶うが、 剣士として最下層の警備隊からは他種業に移るしかない。
流石に、この腕を腐らせるのは惜しいと、それには教師からだけではなく、騎士団からもストップが掛かり、予想外にもエドガーの希望は保留されてしまった。
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