第1章・目覚め 1ー②

「エドガー。この間も学年でトップだったそうだな」


「まぁ、俺が強かったっていうよりは、他のみんなが弱かったってだけだよ。同じ学年にヴェンデルがいた訳でもないし」


ヴェンデルは、二年前に騎士養成校を卒業して、今は騎士団に所属し、第五部隊の隊長を務めている。

公爵という由緒ある家に生まれ、その飛び抜けた麗しさと、剣の腕前とカリスマ性で、騎士団の顔とも言える有名人だ。


ヴェンデルの在学中は、エドガーも闘技大会で辛くも勝利したものの、その内容は肉迫したものだった。

『英雄の子』天才剣士エドガーがここまで対等に闘えるのは、ヴェンデル以外になかった。


「同学年にエドガーがいたら、私は騎士団で今の地位にいない」


「ヴェンデルは隊長なんだから、もっと偉そうにしても良いのに、お固いなぁ」


在学中も、ヴェンデルから頻繁に声掛けしていたのもあって、今ではエドガーと友人のような関係を築けている。


華やかな見た目に反して、規律を守るヴェンデルは、本来、上下関係には厳しい。

だが、エドガーに関しては年齢に関係なく、その実力への敬意の現れか、親密に接して来る。

それにはエドガーも、純粋に好意を向けられていると分かっていたし、これだけの男に認められているという優越感もあった。


ヴェンデルが、何気なくエドガーの肩に添える手にも、『好意』という熱意が込められていた。


「あと三ヶ月で卒業だな。当然、騎士団に来るんだろう?お父上のアーデルベルト様も、楽しみにしておられる」


「正直言うと、父さんと同じ職場では働きたくないんだけどなぁ。みんな、俺にまでペコペコして来るし」


「だったら、私の下に就くように願い出ようか?私の部隊なら、そんなしがらみはない」


確かに、ヴェンデルの団は他の部隊とは違って個別化した感があるし、若い勇猛な剣士を多く擁する第五部隊には、誰も逆らおうとはしない。

この誘いに応じてヴェンデルの隊に入れば、父の権威に振り回されるのも減り、充実した毎日を送れるだろう。


「考えておくよ」


「もう、あまり日がないぞ」


「俺は別に、警備隊でも構わないと思ってるんだけどな」


「お前は曲がりなりにも小子爵だぞ?平民ばかりの警備隊に入るなんて……」


「俺は、俺の力を必要としてくれるところなら、どこでも良いんだ」


警備隊ともなれば、確かに雑用のような仕事も課せられるのは分かっている。

だが、これまでもそういった生活をして来たエドガーにとって、それは苦痛でも何でもなかった。

無理強いをしても仕方ないと思ったヴェンデルは、諦めのような溜め息を洩らした。


「今日はこの後、暇か?」


「うん、まぁ……」


「だったら、夕食でもどうだ?美味い店を見付けたんだ」


クールなヴェンデルが、柔らかな笑みを浮かべて誘って来る。

この稀少な笑顔は、滅多と人には向けられないものなのだろうと思うと、エドガーの胸も甘く疼いた。

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