序章・全て呪われていた 2ー②

『王太子』から、婚約破棄を言い渡され、『私』は実家の公爵家から苛烈なる叱責を受けた。


『王太子』に不興を買ってしまった公爵家は、これから社交界の行事に参加し辛い。

実家は主に、紅茶やハーブなどを国内外の市場に流通させるのを担っていたが、家業としての商業的な付き合いにも支障を来し。

せめて『真紅の髪の姫』に何とか許しを乞い、溜飲を下げて貰おうと、『私』の名前で最高級のハーブティーを献上する事になった。

それは、『黄金茶』と呼ばれる稀少な茶葉で、一杯で指輪が買える程の高級茶だった。


それは、最後の望みの綱だった。

だが最早、公爵家の娘という名ばかりの『私』は、更に追い込まれていく。

そのハーブティーを飲んだ『真紅の髪の姫』は毒が入っていたと言い、血を吐いたのだ。


『私』は即座に身柄を拘束された。

犯罪者にも言い分があるだろうと、申し開きの場を与えられたが、やはりその場でも喉を絞められたかのように何も言えなかった。


そうして『私』は、他国の王女を嫉妬により嫌がらせをし続け、階段から突き落とし、果ては毒まで盛ったという、嫉妬に狂った公爵令嬢として裁きを受ける。

厳刑を求刑され、『私』は命が潰えるまで、人々の前で鞭打たれた。

纏っていたボロ雑巾のような服は全て引き裂かれ、皮膚からは骨までが顕になって、見た目に人であるのすら分からない程の肉の塊になった。


最後に見た、二人の姿が自らの眼に焼き付く。

蔑み、見下すように冷酷な眼差しを向ける『王太子』。

その王太子に縋り付き、目を逆さ半月にし、口角が耳まで裂けて笑みを浮かべる『真紅の髪の姫』。

 『私』は、この二人に嵌められたのだと、この時になって悟った。


生まれてからこの方、ひたすらに『王太子』の為に厳しい教育を受け続けた。  

一切の余興も許されず、外にも出れず、友人すら作れずに、ひたすら教師達と向き合う日々。

そうして最後には裏切られ、嵌められて、惨殺された『私』。


愚かだった。

無知だった。

そうした人間の心の醜さを、知らずに育ったがばかりに、『疑う』という事を知らなかった。

閉じ込められて育った『私』は、『知る』という事すら学べなかったのだ。

そうして『私』は己の愚かさを悔い、死ぬ瞬間、その心には『虚無』しかなかった。

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