序章・全て呪われていた 2ー①
『私』は離宮から開放され、王宮の一室へと引っ越した。
二十年近くの幽閉から開放され、本来ならば嬉しい筈だった。
だが与えられたのは妃としての部屋ではなく、数多くある客間の一室だった。
それとは別格に、『真紅の髪の女』へ与えられたのは最高級の部屋であり、しかも『王太子』の部屋と同じ階だった。
それでも『私』は、隣国との関係性を考えれば不平を言う訳にはいかなかった。
後々には王妃になるという気概と、公爵家の娘としての矜持で、これまで学んで来た知識と作法を最大限駆使した。
だが、それはことごとく裏目に出た。
気温の高い国で生まれ育った『真紅の髪の姫』の舌に、温かな紅茶は合わず、「熱湯を飲ませられた」と悲鳴を上げられ。
『私』にドレスの裾を踏んで、転ばされたと侍女に言い回り。
池に突き落とされたと言って、『王太子』に泣き付いた。
しまいには、本来は『王太子』と『私』が結婚の発表するだろう公の場で、『真紅の髪の姫』は階段から自ら転げ落ちたのだ。
しかも、その時、隣には『私』がいた。
『王太子』が慌てて『真紅の髪の姫』へと駆け寄る。
その細い肩を抱き寄せ、まるで口付けるようにして顔を寄せた。
「大丈夫か?!どこか怪我をしていないか?!」
「わ、わたくし、突き落とされたのです」
「何だと?!」
「「邪魔な女は居ね」と言われて……」
「何と……これまでは目を瞑っていたが、これ程までに愚かだったとは……」
『私』は、「違う」と言いたかった。
これまでの事も、濡れ衣でしかない。
『真紅の髪の姫』の自作自演なのだと。
紅茶の温度は低い位だったし、彼女には近くに寄った事もなければ、指一本触れた事もない。
だが、それを言おうとしても『口が開かなかった』のだ。
まるで、何らかの力によって、喉の奥を締め付けられているかのように。
「お前という奴は、何と恐ろしい女なのだ。我が国とアスターナ国の国交を、断絶させるつもりなのか」
「ち、違います。殿下、これは、違うのです」
「お前とは、婚約破棄をする!こんな人の心もない、鬼のような女は正妃に相応しくない!」
「殿下、そんな風に彼女を責めないで下さい。殿下を愛するが故に、冒した過ちなのですから。わたくしなら大丈夫ですわ」
「姫は何とお優しいのか……」
見つめ合う二人を、皆がお似合いだと仄めかす。
そうして、『私』は『王太子』の婚約者どころか、社交界での居場所すら失ってしまったのだった。
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