第19話

「ニンゲンジョキン?」




聞き慣れない単語にぽつ。と言葉を落とし、前を向いた時、彼――キオが手にしていた消臭スプレーが拳銃のように私に向けられていて目を丸くした。




見下ろす影のある朱い眸にドキリとしたのか、殺される、と本能が察知したのかどちらかわからない。



これが吊り橋効果……?



違うか。




流石にこれを向けられた経験はない。



たった今初体験中だ。



いや、正直人生でこうして向けられる日が来ようとは予想していなかった出来事だ。




「あの」


「何?」


「それは臭いを消すためのものであって人間を消すためのものではなく」


「へぇ。で?」


「シュッシュシナイデ」



「キオ、俺は生贄を捧ぐ」


「真顔で何言っ」


「はい、ハノ?もう一回言って」



「シュッシュシナイデ!」



「ちゃんと言わなきゃ聞かない」


「……え、え」




狼狽えると、背後から「『ください』だろ」と囁かれた。



「シュッシュしないでください」


「やだー」


「ちょおおおおおお」






私は、消臭された。

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