第16話

ちゅ、と肩甲骨の辺りでリップ音が響いた後、チク、と同じ箇所にあまい鈍痛が走って眉根を寄せた。



骨に直接、唇の感触があるようで怖い。




するとほぼ同時に目前のドアが開き、さっきこの背にいるであろう男の人に『キオ』と呼ばれていた、銀に朱の人が現れる。




「あ」



私だけが声を落とす。



彼はすっかり暗くなった夜空を背景に、まるでゴキブリさんの死骸でも見付けたかのような表情を浮かべていて、左手には消臭スプレーが在った。



外で何していたんだろう。



「何、しているんだ」



おお。


お互い同じことを思ったらしい。




「しゃ、がんでる」



「背中にきすしてる」



「はあ……!?き、きったな……有り得ないマキ」






“マキ”





ここで初めて耳にしたそれは、恐らく、この淡茶の彼の名前だった。

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