第10話

硬直する身体を抱えられたまま開けっ放しのドアの奥へと進むと、今度は一瞬で内装に目を奪われる。




高く高く伸びる天井には中世ヨーロッパを舞台にした洋画で観るような絵が描かれていて、長い廊下の壁には大体2メートルぐらいの間隔で黄金の光が燈っていた。



声が降ってきたのは、床に造られた薄い影に視線を落とした時だ。




「まず風呂」



「えっ、やっぱり私、臭……!?」


「うん?」




廊下を進みだした笑顔の彼に言葉なくはくはくと口を震わせる。



な、それ、辛……いや、辛いのはこの人だ。


ごめんなさい。




身体が浮いていることすらすっかり忘れて懺悔していると、クス、クスクス、と囁くような笑い声が聞こえた。




「うっそー」




バァーカ、と続けられた声に耳を疑い見上げた彼。



笑顔が、Sの付く何かへと変わり始めていた。




「『マスク』のキオが嗅げるわけないし、嗅げたとしてもそんな臭ぇ女まず業者呼んで駆除するわ」

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