第9話

「すぐ行くので……あ、あの、マスクの」



臭い汚いキモイと続けられた私。


なるべく人を近付けたくない心でいっぱいになっていた。




「“キオ”?会ったんだ?どっかで掃除か除菌してると思うけど」



「掃除か除菌」



ん、と答えつつ転がっていたバックパックを拾い上げる彼。



持ってくれたことが判って、「ありがとう」とお礼を言いかけると同時に開けたドアの中へ抛り投げられた。



目を瞬かせた私と向き直った彼の視線は再度こんにちは。



「ナニ?」


「いえナニも」



「そ?」




そうやってふと零される笑みに、引き締まる心臓。




続いてしゃがんだ彼の腕が背中と膝下に回ったことで、突如心音が加速した。



ふわりと、漂うほろ苦い香り。


楽々浮いた身体。




「のわっ」





その香りで、彼が、煙草を吸う人種かもしれないと思った。

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