第8話

何か聞こえたような気がした。



まだ浅かった眠りから目を覚まして瞼を持ち上げる、と。



至近距離に先刻の男の人とはまた違った綺麗な瞼が閉じられていて、思い切り後退った私は壁に後頭部を打ちつけた。



「ッ」




「うわ、大丈夫?頭」



「だ、いじょぶ」




何だ何だ。何が起こった?



苦く甘く漂う香りに現実へ誘われ、前を見つめると妖艶に細められた眸と目が合う。




腰が砕けそうな微笑み。




さら、と零れ落ちるような淡茶の髪に見惚れていると、薄いくちびるが徐に開いた。




「――“ハノ”?」




「は、い」





「行こっか」




そう促されて続こうと地面に手をついたが、起き抜けと拍子抜けが重なって腕に力が入らない。

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