第5話

じわりと滲むような暑さを、黒いバックパックが下がる肩口に感じながら待つこと数十秒。



微かな音に顔を上げると、裕に間に合ってドアが開いた。





「…………誰」




僅か五センチほどの隙間から覗く右目。



重め・癖ありバングの所為で殆ど容姿は認識できないけど、目線が少し上にいくので男性だ。


声のトーンからも予想できる。





「あの、三島ハノと申します。怪しい者ではありません」



「“ハノ”……?……ああ」




成立した会話の後、彼がマスクをしていることに気が付いた。




「そういうふざけた挨拶要らないから」




吐き捨てられた言葉。



こつん、と音を立てて私の足元に落ちていく。





「臭ぇ」

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