第36話

亜子は。



玄関先で渡されたケーキの箱を受け取った亜子は、嬉しそうに目を細めて笑った。



サンタへのお願い事に、『弟の、太郎の欲しいものをあげてください。私は、この前お父さんに欲しかった傘を買ってもらったので大丈夫です。』なんて書いていた亜子。



そのピンクの傘は、長い間、彼女に大事に使われた。











――――――――……







「あこ、」




小さな声で、呼んでみる。



すると頬杖をついた俺の方に、目を薄らと開けた亜子が振り向いた。




「か、えで?…、よんだ?」



目を擦りながら問い返す亜子に、また笑みが零れる。




「呼んだ。亜子は、今までずっと弟が三人もいるようなもんだったんだなって、思ってた」




にへ、と笑う俺にきょとんとして、何言ってるの?と目を丸くする。



「いや?ただ昔のクリスマスのこと思い出してた。颯が昔、熱出した時の」





小さく黙った後、ああ、あれかあとゆっくり笑う亜子。



「あのとき――多分あの時のクリスマスね、楓がケーキ持ってきてくれた後かな?出掛け先から帰ってきたお父さんとお母さんが何故か可愛い長靴、買ってきてくれててね」



「うん?」



「朝起きた太郎が、自分の枕元の後にあたしの枕元を見て何もないことに気付いて、『どうして姉ちゃんのところには何もないの?』って泣いて、じゃあ自分が買いに行くって玄関に走ったらしくて」

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