第35話

――――――……





そんな昔の話を思い出していた俺は、外でしんしんと降っている雪から目を離して、寝息をたてる亜子の顔を見て。


クス、と微笑む。







――結局あの日のクリスマス、母さんは帰ってきた颯と泣いていた俺の希望で、父さんが帰ってきて颯が薬のおかげで熱も下がりかけたあと、ちゃんとクリスマスパーティーをしてくれた。



だから今も、熱冷ましシートを額に貼った颯と、目元が紅いままの俺が、骨付き肉を片手ずつに笑っている写真が残っている。




骨付き肉がテーブルに並んで、母さんが「サンタさんが昨日の夜来て届けてくれたのよ」と笑って、俺は、颯にこれが俺がお願いしたものだと威張ろうとして隣を見て。



同じように目を輝かせて俺を見た颯が先に、「おれがおねがいしたもの、ちゃんときた」と嬉しそうに呟いたことで、頼んでいたものが同じだったと知った。




雪で頬を真っ赤にして帰ってきた父さんが、玄関でコートに付いた雪を払っているその右手に、ちゃんとチョコレートケーキが入っているであろうビニール袋は握られていて。


でもその中身は、ワンホールにチョコとショートのケーキが半分ずつで。




俺はショートケーキが好きだった。



颯はチョコケーキが好きだった。




でも俺はチョコケーキを頼んだはずで、どうしてショートケーキが入っていたのか、あのころはただラッキーだと嬉しいばかりで気にしなかったけど、今なら解る。



どうして俺の好きなものが入っていたのか。



誰が頼んでいたのか。




なんて。





それで「亜子ちゃんにお礼言わないとね、楓」と笑った母さんに、俺は亜子が好きだった苺を、ショートケーキから取ってあげると言って聞かなかった。



それは流石に、と笑う母さんは結局その後で一緒にケーキ屋でショートケーキを買って、確か亜子に渡させてくれたはず。

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