第33話

状況を飲み込めているんだか飲み込めていないんだか、俺は、視線の先を左に移して颯を見る。


よいしょ、と抱えられた顔の見えない颯がぐったりしていた。




「楓も一緒にくる?」



髪に触れた母さんを見つめたままでいると、言わずとも理解した母さんが「本当にだいじょうぶよ?じゃあすぐ戻ってくるね、お薬もらって」と微笑んだ。


もちろん颯も一緒に、と付け加えた母さんは立ち上がっていった。












人気がないリビングに行くと、寂しくないようにとテレビがつけっぱなしでいた。


そのおかげか寂しいとは感じなかったけど、颯を思い出して、泣きそうになって、それを堪える。



何もする気にならなくて、ふらりとカーテンを捲って見たら、外では真っ白い雪が降っていてびっくりした。



白い雪を被った建物に、普段だったら絶対大喜びするはずなのに、どうしても喜べなくて、それどころか不安が増していった。







と、目をやった道路の奥に、見慣れたピンクの傘が揺れていることに気が付いた。



あれ、は。




今度は泣きそうだったことも忘れかけて、パジャマのまま靴のかかとを踏んだまま、ドアを開けて中に吹く冷たい風を押して白い世界に飛びだした。






「かえで…!」




呼ばれた名前に、走るピンクの傘と黄色い長靴。




知ってる。


ピンクの傘はどうしてもっていう彼女に彼女のお父さんが買ってくれたもので、黄色い長靴は弟も使えるようにと男女兼用のもの。

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