第30話

十年ほど前のクリスマス。


その一週間ほど前、双子の兄である颯がリビングの椅子を引っ張って窓に近づけ、その上に上っていた。




お昼ご飯を食べていた俺はその鳥そぼろから顔を上げ、スプーンを手にしたまま颯に声をかけた。



「はやて、なにしてんの」




俺に振り向かないまま椅子の上に立った颯の足元には、家で履く用のもこもこの靴下が置かれている。



「なにって、サンタクロース」




颯はそう言って、足元に落ちている、僅かに履き口から白い紙の見えている靴下を手に取った。



それを見つめていると颯はカーテンを伝ってカーテンレールを見上げたが、またすぐこっちに振り返った。



「かえではやらなくていいの?」



「え?」


「だって早くしないと、サンタクロースが見ないまま忘れちゃうかもってかあさん言ってたよ」




「うそ!?」



ガタ、とまだ足が床につかない椅子から飛び降りて、颯のを見よう見真似して、双子の部屋へと小走りする。



部屋に入ると、いつもそこからパジャマを出す引き出しの所へ一直線に向かって、中から颯の水色のと色違いであるオレンジの靴下を引っ張り出した。



周りのパジャマが少しぐしゃっとなったけど、多分あとでかあさんに怒られるかもしれないけど、俺は引き出しも引っ張ったままリビングに駆け足で戻る。




「はやて、どうしたらいいの!?」



その靴下を持って、はやてに呼びかける。


椅子の上で一生懸命背伸びしてカーテンレールに腕を伸ばしていた颯は一度落ち着き、振り返って俺を見た。




「紙にペンでサンタクロースへのおねがいごとをかくんだろ」




はあ、と背伸びの疲れに溜め息をつき、ペンを探し出す俺を見た颯は再び背伸びを始めた。

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