第29話

「薬は?」


「飲んだ」



「飯は?」


「食べた食べた」




そんな高熱でもないから、と亜子はおかしそうに笑った。


そういう問題じゃない。





「もう学校終わったんだね」



俺の後ろの壁掛け時計に目をやった亜子。



「うん、今日は午前授業だけだったし。明日もそうだから。それで冬休みな」



教えると、ふふ、と目を細めてそっか、と返事する。




「じゃあ明日までに治す」



「いいから。寝とけ」







――――明日を約束したわけでもないけど、毎年そう。





今のように、亜子の“彼氏”になる前から。




約束なんかしていなくても。







何か言って顔を少し背け、目を瞑った亜子を見て、思い出す。





今から十年ほど前の、クリスマスの話。

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