第15話

――――――――……




「亜子」



そう呼びかけると、彼女はビク、と肩を揺らす。




――傷つけた。





「あ、おはよ、楓!」


くるりとこっちに振り向いて、いつも通りに笑う亜子。




気にしてない……訳がない。


無理に笑ってるのは分かってる。




「亜子、途中まで一緒に行っていい?」


「…ん、いいよ」



亜子の小さな沈黙に心は痛んだ。




亜子。



俺どうしたら良い?


やっぱ、俺じゃ亜子を幸せにできない?



もしそうだったら……。




俺は、普段通りを装う亜子を利用する。


これが、自分自身を傷つけることを知っていたとしても。




「なあ、亜子」


「ん?」



指先が震えていることを隠すように、亜子は笑った。




「俺がさー…」



そう言って立ち止まる。


亜子は少し前まで歩いて、俺の方に振り返った。

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