第13話

少しの沈黙が続く。


楓がいつもの雰囲気になるのが分かった。




「亜子、“好き”って言ったことある?」


「何いきなり…?」





嫌な予感がした。








「亜子に“好き”って言われる奴、可哀想だと思って」






あたしは世界が色褪せていくのを感じた。




じわりと滲む涙を堪え、自棄になって声を出す。



「な…、あんたに関係ないじゃ…ん」





――そうなの?





「言われる奴が可哀想って思っただけ」


そう言って馬鹿にしたように笑う楓。





――楓は本気でそう思っているの?





……ずっとそう思っていたの?



あたしはただ、小さな楓の手を握って、この夏の道を歩いた時のことを思い出していた。



そっか、そんなもんなんだ。




あたしだけだったんだね。

特別、大切に大切にしたいって思っていたのは。





「…じゃ、あたし、帰る…」




震えていた。


声も、


手も、



心も。




楓はその後も何も言ってくれなかった。

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