第9話

――――――――……




「亜子?なんか今日苛々してる、?」


「え、そんなことないない」



そう目の前で手を左右に振りながら、再び今朝のことを思い出して、ムッと口をへの字に曲げた。


それを見た友だちは苦笑する。





…別に、楓が嫌いなんじゃない。


楓はあたしのことをほとんど知っているのに、あたしは楓のことをほとんど知らないような気がして。


ずるい、とか。


それに今はああでも段々離れて行っちゃうんだなあって思うと、ちょっと、寂しかったり。

色んな感情がごちゃ混ぜ。




それに、ああ、また喧嘩しちゃった…。


朝が悪いと、その日って何となく気分は沈んでしまうものだったりする。




「亜子、今日寄り道しない?」


「あー行きた……」



「どした?」



あたしが固まったのを見て、友だちは視線を辿る。





――校門に、突っ立つ楓の姿が見えた。





校門を行き交う生徒の中で、誰かの弟かとひそひそ噂する声が聞こえる。




「楓、」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る