第129話






誰にも秘密だった。



何でもできた。



世の中は、金で解決できないことはないらしい。


へー。


何でもできたから、何にもいらなかった。髪の色素は生まれつき薄いし、眸の色もどうやら他人と比べて薄いらしい。


だから、目立つ。青桐の学ランもきっと同じ。目立つ。


それでもよかった。


けど、秘密。ただ秘密がほしかったのかもしれない。周囲皆がよく見る自分にない自分を、自分で作り出したかったのかもしれない。



何でもできた。喧嘩も。



初めて人を殴った瞬間とか、憶えてない。


いつの間にか噂が噂を呼び、青桐の伝説としていけた自分は顔に傷さえ残らないから、負かした奴が相良だと触れ回ってもいつも笑顔を作って笑う俺だとは誰も思わなかったらしい。

へー。


凄いね。人って、信じて疑わないんだ。



俺は、君の彼氏を殴ったよ。


今君が触れている、この右手で。




……退屈だった。




或る時突然、自分に小学生の妹ができると聞かされた。


今更のことに、驚くことも別になかったけれど彼女が通っているらしい小学校くらいは暇だったから見に行くことにして。


昼間、青桐としては自習の時間帯にそこを抜け出して小学校近くの公園のブランコに揺られているなんて怪しすぎたけど、まあいい。


そう思って顔を上げた時、目に入るものがあった。



その〝妹”と同じくらいの女の子が、ふらつく足取りで公園の水道で手から腕、そして血の滲む膝を洗っていた。



「……は?」



俺も大概怪しいが、彼女も、虐められているのか?


妹本人かという考えが頭の中を過ったことも否めない。



「ちょっと」



強めに声を出す。女の子は俯きがちにこちらを見遣り、びくつくかと思いきや、へらりと、笑った。



ブランコに浅く腰掛ける俺の所に来るもきょとんとしたまま声を発さない彼女。口がきけないのかと思ったが、こっちにこいと声をかけてみると「は、」と小さく戸惑った声が返ってきた。




「何してんの」



「てを、洗っていました」



「転んだか」



「…はい」



嘘を吐くまでの間が短い。



恐らく、吐き慣れた嘘なのだろう。

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