第123話

嘘みたいだった。




陽に溶けてしまいそうな女の子はひとり、辺りも見ずに当然ボクの視線に気付く素振りも見せずに真っ直ぐ、どこかに向って小走りで近寄っていった。



その様子を観察。




アレは本当にボクを同じだけの暴力をアノ男から受けているのか?



本当に?


そうは見えない。


なら何であんなに嬉しそうに――




視線で追っていくと、彼女はひとつの本棚の前で立ち止った。



何か本を探すでもなくつまり最初から何か目的があったように細い指先を伸ばした先。



自分の背丈より少し、上。



一冊の分厚い本をゆっくりと取り出した。




どうしてだろう。



その時それが彼女にとってどれだけかしれない程大切なものだと気付いた。


あれが、彼女を支えている。そう感じた直感的に。




彼女はそれをそっと、一度抱きしめて、揺らぐ視線の中で本の表紙をなぞってゆっくり、それでも逸る気持ちを溢れさせて手を掛けた。



中から姿を見せたのは、一枚の白い封筒だった。

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