第118話

「霙くん?どうしたの」



「……えっ、ぁごめん考え事してた…っていうかちゃんと先生って呼んでって何度も」



「だってウメノミヤって言いづらい!」


「……!それ、前に君のお兄さんにも言われた気がする」

「私、そういうのいないよ?」



「あ、そ」



子ども。



その頃、ボクは家庭教師をしていた。



バイト何て縁のないことだったけど、するしかない状況下にあったからだ。強要されていたとしか思えない。だって金は必要だし。

何で金が欲しいのかも解らないけど。仕方がないことだろう。

だって。


だって。



「ぶつけたところ痛いの?」


「いや…まぁ痛いは痛いけど」


「痛そうー」


隣に座る中学生に苦笑して、傷に触ろうとしてくる手をやんわりと払い退ける。

彼女は拒否に遭った手をついて椅子を引いた。


面倒事は御免だ。中学生の女子何て、その中で女の部分が勝るのか中学生の部分が勝るのかも判らない。ボクは、ただもう誰にも構わないでほしかった。


「私の親友も霙くんと同じところ怪我してて。すっごく痛そうで」


「へぇ」



明るい声が頭に響く。


出たー。クソどうでもいい話。



「次この問題ね」


ウン、と返されて腹が立った。


教師を先生とも呼べない。


親にやらされているにしろやる気もない。


タメ口だしな?


「あー!かんなちゃん大丈夫かなー」



「へぇカンナちゃんっていうんだ」



どうでもいい。手ェ動かさないなら帰りたいんだけど。


「そー。出席番号がね、近くて友達になったの。私“ サ ”でしょ?かんなちゃん苗字『あべ』だから隣の席で」







「――え、」







一瞬、面白いくらいに時がとまった。




それから自動で、頭の中で巻き戻しされ、再生され。



確認した。もう一度。





「……ア べ ?」




阿、部?




今阿部って言った????

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