第117話
「――ッゥグ!!」
――金網に、ヒトの身体があたる音がする。
ああこれはボクの身体だった。
散らばる前髪鉄の味。今、殴られる瞬間、奥歯を噛み締めてしまったからかもしれない。そして覗くのは光じゃなくて――――。
ボクは金網より校舎のコンクリートの壁に向って投げられてあたる方が痛いことを知っているしそれはこの目の前の人から教えられたんだ。
そうだ。“アレ”は痛い。頭からイッた時は最悪に、だ。
立てない。朦朧とした意識の中で項垂れるしかなくなっている頭。
ぼんやりとした視界に映り込む赤は折り畳まれた膝の上に在る。
手、に。ああ。
「オボッチャーン。……そんな?」
そんな?って。
笑っている。
「も、もぅ止めてくださ、いお願いします…!おねが…、ァ」
既に何度目かの最後の力を振り絞った声だったが上げられた脚に、反射的に目を瞑る。一瞬見えたのは生ゴミの上でも歩いてきたかのようなドロドロの靴裏。視界は赤い。それで蹴られる。
そう思ったが痛くはなく、恐る恐る目を開けると目を、三日月のように細めて笑い転げる程の爆笑に昂じる同年代の男たちがいた。
現状は何も変わらなかった。ボクの『最後』は彼らには何度もくる『最後』だ。
何も。
何も。
変わらない。
ボクの手にはボクの赤。目の前の人の手にはボクの赤、と金。この光景、何度も見た。
ああ。頭が、痛い。
何かに切られたように痛い。涙が出ているのかも判らない。
「ウチの“いもーと”でも自分で手当てするよーぅ…ウケんだろ」
ギャハハ、と笑い声。
怖い。
兎に角続く笑い声。笑い声。笑い声。
イ、モウト?
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