第110話

「……たぶんですけど、貴章は、誰が気付かなくとも確かに弱みが最も見つかり難い。…それくらい何でもできる人ではある」





けれど。どうしてだろう。




“優等生”とは違う。











「―そっか。優等生っていうのは櫻井さんみたいな方のことをいうんだ」



「はい?」



翌日、目の前のパソコン画面を見つめたままぽつりと呟いた。当の櫻井さんは私の後列の席でゆっくりとマグから顔を上げた。


その横で頬杖をついていた高橋さんは、普段から趣味が悪いと評価している櫻井さんのマグ越しに私の方へ視線を遣った。


「ああ灯ちゃん、昨日の話だね」



「はい」



「何?」



「まー聖を優等生にするのにはもちょい外面を足さないとだめだと思うけどねぇ」


「外面!!」


カッ!!と目を見開く。櫻井さんが怪訝な表情を浮かべている。


「ちょっと言い換えて社交性、ですね。確かにその点では櫻井さんより貴章の方が備えられている。飛びぬけて飛びこして」


「あかちゃん?」


「まーまー。何か、相良の過去を探っているらしいよ、疑わしいんだって」


「疑わしい?」


「ウン。王子様。全然解ってなかったって。俺と聖も相良のことは高校の時から知ってるけど、学年はどうやっても違ったし女の子の勘的に見た視点は予想つかないからねー。……あ、聖の方は?何か判った?」


そういえばと白々しく話を持ち掛ける。



櫻井さんはマグを置いて引き結んでいた唇を開いた。



「判っ、りそう。俺は霙さん担当だけど、霙さん、母校が――――





“青桐”だった」

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