第109話
遡って、20:07――
「ねぇねぇ灯ちゃん、煙草と強いお酒って最悪の相性だと思わない?」
のっけから、普段の自分からしたら自制の利いてない強めのお酒を飲んでいた。
「煙草吸わないので…」
「あはは、だよね俺も吸わないからわからない」
「…」
何の話だろう。
カウンター席で左隣りに座る大天使みたいな姿をした会社の先輩がザルだからかもしれない。
その彼はさっき、身体を震わせて『仏ROCK』なる謎の曲で電話を促したスマホを手に取り、
「この曲はね、聖だ。いー?」
と、私に電話に出ていいか確認をとってくださった。私が頷くと、にこりと笑みが返される。その笑みは50万円ほど騙し取るのに苦の無いような笑み。
それから1分と経たず彼は小声でそれまでの会話を私へ要約した。
「緩菜ちゃんのキスの相手はうちの会社の御曹司だったっぽい…。それで、その彼は過去に相良と何か関係があるかもしれない、と……」
――「へぇー」と零した高橋さんは眸を震わせて笑みを噛み殺し、「面白い」と呟いた。電話の相手にそれは怒られるかと思いきや、同じタイミングで全く同じ台詞を呟いたらしい櫻井さん。
高橋さんは思わず頬を緩めて電話の向こうへと続けた。
「緩菜ちゃんが鍵を返した理由がやっぱり相良の為だったってことだけでも早々に判ってよかったね――え?ううん、俺は彼女の所には向かってない。今宇乃と飲んでて。そう、あの通りの。ほんと耳良いねー」
まるで他人に関心がないように続け、最終的に電話を切る。
「だって」
「……御曹司……?貴章と、繋がりのある……?」
暫く息を止めた後、「うー」と唸った。
「……貴章が、解らない」
「……というと?」
高橋さんは、灯ちゃんが気になるのは相良の方なんだと興味深げに小顔を傾けた。
「……貴章って、物凄く器用で。何でもできれば周りの人に信頼もされていて。でも唯一怒ったりする時もあってそれってやっぱり、自分が守りたい人を自分が守るべき場面だと判断した時だと思うんですよね。その判断も早い。だから、貴章が阿部ちゃんが自分以外の男の人にキスされた後を見てしまったのだとすれば、……された後だから優先すべきはした男でなく阿部ちゃんだと判断した。追いかけた。でも」
「でも?」
「無理矢理キス、したのかと」
「好きだからでは?」
「はい。いえ、私は今回のこのことで――阿部ちゃんと付き合ってからの貴章が、隠していたといったら何ですが今までにない貴章を見え隠れさせているような気がして」
「え――相良は、高校の時からああいう感じだよ?」
「本当ですか。高橋さんと櫻井さんは、貴章の一つ上の先輩でしたよね」
「うん…相良は、〝優等生”で有名だった」
「……」
優等生、ねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます