第103話

▲櫻井聖の聴取▲








時計の長針が12を指す短針に重なり、昼休みの始まりを告げる。



「櫻井さ――あ、また何か読んで…」


「みゃーからの二通目の書簡」


ふむ。


はぁ、と息を吐くと物のかげからこちらを窺う気配がした。


大方自称・企画ぶの情報網河合だろう。


目を遣って視線が交わる確認を取るより早くふと哂う。



ガタ、という物音を背にオフィスを出て食堂へ向かった。




『みゃーからの二通目の書簡』には、尾行した結果が記されていた。


あべさんが、唯一社内で声を掛けられたという。その相手は――




「すみません、最もお忙しい時間に」



「……え、ぼく!?」



賑わう食堂の端、その人物がゴミ捨てに来るタイミングを見計ってカウンター越しに声を掛けた。


背の高い彼はその背を折り畳んでこちらを窺い、自分に気付いて驚いた。そしてゴミ袋を手にしたままのこのこと出て来る。



「一つだけお聞きしたいことがありまして。貴方が答えてくれればすぐ終わります」



彼は被っていた帽子を取って注意深く笑顔のこちらを見つめた。


それもそうだろう。俺自身は彼女と何の関わりもない。自分が何故今声を掛けられたかも解らないだろう。




彼の名前は、みゃーが割り出してくれた為判っていた。




「……貴方あの櫻井さんですよね?食堂(ウチ)でもとっても有名です」




「貴方こそ。どうして身元を隠してまで〝ここ”へ?



……〝ウメノミヤ” ミゾレさん」







梅ノ宮 霙――――。





それは、この梅ノ宮という会社の、次男坊の名前。

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