第95話

そして珍しく心配そうな表情で押し出された貴章。



いがむ私に櫻井さんは、「あーあ、王子様のあの顔。花吹の借り、返す時が来たか」と冗談ぽく呟いた。


「借り?」


「なー花吹?」



「は、相良さんには、世話になりました……っ」


「どうして花吹さんそんな言わされたみたいな」


「花吹は相良に、あかちゃんとのことでの感謝半分、あかちゃんが相良のこと何度も『たかあき』って呼ぶの耳障りだったの半分なんだよね」


「エッ。どういうことですか花吹さ ん」



「さくらいさん」


テーブルに腕を着く花吹さんをガン見している間に高橋さんが「脚痺れたー。聖、俺に半ケツで座らせるんだもん」と言いつつ向かい席に移動。



その高橋さんのとなりにスッ…と忍の如く着席したひとつの影が在った。



え、え。


「カワイチャン?」



「話は聞かせてもらいましたもっとも――よりお聞かせ願う部分は多く在りそうですが」



ふわりと髪を払って忽然と姿を現したカワイチャン。



凄いというか、強い。


彼女こそ現代に生き残る、忍ファンの求めた真のくノ一であろう。



「い、いつからここに?まさか『付き合ってもらって悪い。ヒジリくんと花吹』から……?」


「いいえ」



「じゃ、あ高橋さんが省かれた決定的瞬間『アレ?ミズキくんは?忘れないで』から?」


「ちょっおお灯ちゃんー?その傷抉られるととっても恥ずかしいよ?ヤメテ、ヤメテーッ」

「あ…。わざとです」


「ですよね」


「それよりもっと前です。ここへは、店員さんが震える手でお冷を高橋センパイへ手渡したさい、触れるように受けた高橋センパイが「あ、震え移っちゃった」と笑いかけ、罪を重ねた頃来ました」


「河合?後で職員室来ようか」


もう河合ちゃんのくノ一力が凄いのか高橋さんの紳士力が凄いのか判らなくなってきた。


「先生すみません今日は習い事があります」



「ではここにパーティーを結成しよう」




は????




突然。目の前で手を組んだ櫻井さんが何か言い始めた。



脈絡ないけどどうしたのかしら。

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