第94話

は????



「今、何て言った?」



仕方がないとでも云うかのように、目線を下に口にした貴章。




「『いつかはいなくなる』? 何言っ「灯」




突然の名前。に、呼ばれて驚い…たと同時にかぷりと噛まれた右耳。



「へぇ!?」


「すみません」



小さくはにかんで、謝った右どなりの人といえば当然の如く花吹さんなわけで――――。



私は、問うことも反抗する間も与えられないまま同じく驚きに目を点にした櫻井さん高橋さんを背に、前を向き直った彼の横顔をただ見つめていた。


「その先の話は、勝手ですが彼女とする話だと思います。けど相良さん、どうしたらいいかわからないということはどうにかしたいということですよね?…それだけ確認できれば充分です、」



何?


ど、して噛まれたの



「……」

「……」


「ワーォ……」


黙る私と櫻井さん。高橋さんが「仕事が早い…惚れる…惚れる…」とだけ続けた。って、惚れるな惚れるな。



恐縮ですが私の花吹さんだぞ。



「相良、そういうことだからもう帰っていいよ」


「ひじりくん?」


「俺らのコウハイが頼もしいから大丈夫だろ」


「……『俺ら』も出番あるんだよね?」



高橋さんは半分呆れたように櫻井さんを見た。


「――勿論」


彼は少し愉しそうに高橋さんの方は見ず微笑み、「瑞樹が一番相良新人の時面倒見てたよな、センパイ?」


可愛いコウハイの花時だろ?と問い返して、高橋さんを悪戯に笑わせた。



まるでお茶会に参加しているかのような王子様たちの中、私がどうして噛まれたのかだけが甘い甘い疑問として残る。

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