第82話

宇乃さんを医務室まで運んで戻ってきてからも、あちらこちらの席にお呼ばれしてはからかわれながらお酒を飲まされていた。



「お姫様抱っこだよ!?リアルなの初めて見たよ相良くん王子様に見えたもん」


「俺?…っていうよりあいつ軽いですし荷物と一緒ですよ荷物と」



「……!?と、とっりあえずどういう関係」


「元上司と部下ですー」



笑い声だけが聴こえる中、小さくやってしまったと呟く彼の声が背に聞こえてきたけれど何のことだったかは判らなかった。



その頃私は二次会は抜けます参加しませんという佐伯さんから後は頼んだと言付けされ、その責任を果たすため、呼ばれてもいない二次会の波に恐る恐るついていっていた。


一人忍者ごっこである。




二次会が始まり、同じグループに座られているおじさま上司たちのお相手をしているとぐい、と横に誰かが来た感触。




「…あ」



王子さ――相良さん!




目の前の上司が「おー!相良!やっと来たか」と上機嫌に笑う。相良さんは始め見た時と比べると気の所為程度に目元が赤く染まっているようないないような…?な感じだった。



あれだけ飲んで。


凄いな。お酒、強いんだなぁ。


「お待たせしましたー」


「待ってたよーまー飲め飲め」

「うぇ」



舌を出した相良さん、と、一瞬だけど目があったような気がして少し色っぽい目元にどきりとしてしまう。



…わかった。


この方、瞳が凄くきれいなんだ…。だから、横に来たってだけでどきどきが止まないんだ。


と、背凭れに寄りかかった相良さんの横で、小さくなっていた。



「よしあべちゃんも飲んじゃえ飲んじゃえ」


「わ、わたしは未だ……」



「未成年なのあべさん」


ゴク、と喉を鳴らして口を離した相良さんは、ひんやりとしたジョッキに頬を近付け横目で初めて〝名前”を呼んでくれた。知ってくれていた。



「は「いーよいーよこういう時くらい!どーせ後一ヶ月くらいでしょ?」



言葉を遮ってコップに注がれていくのは、飲んだことのない度数の強そうな瓶に入っていたお酒。


「あ…」



本当に、飲まなくてはいけなくなってしまってきた。どうしよう。



冷や汗が浮かぶ。



「ほらー。こういう時の付き合いってあるから」



相良さんの視線も、感じた。ノリの悪い新人だって思われてしまうのは、嫌だった。



「パワハラってわけじゃないよ?なぁ?…えっこれってパワハラ?」


「あべちゃんが飲むっていってるなら大丈夫でしょ、ねぇあべちゃん」



「はい」



だから。


拒む気持ちを押し殺して、見ない振りをして、一度きつく目を瞑った後覚悟を決める。急く気持ちだけでコップに、指をかける。



「…で、では、いただきます…っ」

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