第83話

「待った。飲まなくていいよ」





「え――」



上司二人と、声を上げて相良さんを見た。



相良さんは一度唸り、「あーちがうちがう。これの方が強いからせんぱいはこれ飲んでくださいって提案♡」と続けた。



「ごめんね、期待させちゃった?」



呆然とする私ににこにこと満面のあまい笑顔で差し出されたのは大きく、並々お酒が注がれたコップ。目の前の上司たちは上機嫌に上機嫌を重ね「相良ぁー鬼畜だぞー」と囃す。



「えー?だって彼女、先輩だからー」



そ、そっか。先輩だなんてとんでもないけれど、


そっか。



涙を呑んでそのコップを受け取る。



それと入れ替わりに相良さんが私のコップを手にしたのが視界の端っこに映ってもう、逃げられないんだと思った。


コワい。



怖い、けど。




涙の浮かぶ目を強く瞑って、思い切り口づける。





「……強い方が美味しいよなー」




入れ替わりに相良さんは元々私に飲むように注がれていたコップの中身を飲み干してしまった。





「……っ、ぁ」





ぼろりと。 驚いて零れたのは大粒の涙。




「おいおいどうしたあべちゃ…!?…相良ァ、流石に強すぎたんじゃねぇの?」



「うわ、まじかーごめんなー」




強く首を横に振る。




「…ん?おいし?」



「……。はい~~~~」



その場の笑いを誘うように冗談ぽく言って、頬杖をついて微笑んだ相良さんと、泣きながら何度も繰り返し頷いた入社一年目のわたし。


目の前の上司たちは何だ美味しいのかよと可笑しそうに笑った。




わたしは。




この時のお酒の味を一生、きっと一生、忘れられないと思う。



困ったように笑って、そっ…と涙を拭ってくれた相良さんの表情もきっと、ずっと忘れない。










人生で初めてのお酒は、あまくてやさしい、内緒の







サイダー味。

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