第80話

わらわらと賑わう楽しい座敷宴会の席の中、その時既に、何となく上の方から年が明けてから正式に、応接班に異動されてくる方がいるという話は漏れていたけれど特に班長が大きく注目するよう手を叩くまでは意識が向いていなかった。




「はい、注目――。えー忘年会の途中ではありますが来年から応接班の方に正式に異動が決まった方の紹介をします――どうぞ」




耳の遠く、わらわらが一瞬班長の声によって静まり、小さながやがやへと姿を変えたことに気が付けば皆の目の前。



マイクを班長から受け取ったその人は、大きな歓迎の声に包まれた。



「おいーおまえかよーー!せぇっかく美人でボインなネーチャンが来ると思ってたのによォー!顔の良い男はもういらねぇ!帰れ!」


「やっぱりおまえうちに来たかったんじゃねーか!美しーのは外見だけだからな~「応接へようこそー!!さがらくーん!」


「うるせぇBBA!!餌に飛びつくな!」



口々に、……あちこちに。笑いが起きて、笑顔が飛び交う。



当の本人、さがらと呼ばれたその方は嬉しそうに楽しそうにきらきらした笑い声を零して再度マイクへと向かった。



ちょっとだけ、悪戯な表情を残して。



「わー有り難い歓迎ありがとうございます。誰も俺のこと憶えてないんじゃないかなーびえーん…って昨日の夜も枕を濡らしてたから……とても嬉しいです、皆さんお元気そうで。


今日が初めましての方も、お久しぶりですの方も改めまして、相良貴章です。元々こっちにいた時は商品企画部の方に所属していたので応接のことは自分が一番下っ端になりますが、どうぞ厳しくご指導願います。



宜しくお願い致します」





高い背を折り曲げて、深々頭を下げる姿がとても、印象的なひとだった。




まさか自分が、こんっ…なに素敵なひとと恋に落ちるだなんて、この頃から思わない。

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