第76話
「あべさんってあの例の、〝対人1課”って云われている応接班の人だよね。…あ、今恋人呼ばないでね」
相良さんと同じくらい背の高い彼は屈み、こっそりと耳打ちした。
「き、来ません…!仕事中ですから」
冗談だったかもしれないけれど、試すように囁かれ反射的に返すと意外そうに「へぇー」と笑う。
どこか、嬉しそうだった。
「ねぇ、貴女の彼氏、彼女が呼んだ時仕事を優先するような奴なら僕とお茶(デート)した方がマシだと思う。君の彼氏の過去の話、僕知ってるんだ。聞きたくない?」
「過去……?」
「ウン」
「…っ要りません」
「何で?……あ、もう首輪かけられたとか?」
その言葉に問い返すも彼はぶつぶつと呟いただけ。彼は相良さんを知っているのだろうか。
そういえば彼は、おにいさんは、一体誰なのだろう。
「残念。思ったより従順だった…けど、躾けはなってないみたいでよかった〜。……ね、その鍵のこと誰にも言わないでほしいよね、あべさん!」
……!!
目の前の人は笑っているのに、血の気は引いていく。
「だって大事な恋人さんの鍵だもんね。護らなきゃ」
ドクドクと心臓が波打つ。
どうしよう。
どうしよう。ばれてしまった……?
「ああ、でも護らなくてもいいと思う。だってその元凶、応接班の人が社内の人間と恋愛禁止になったのって君を捕まえている…君の恋人さんが原因だったから」
「え?」
「…。大事な大事な恋人の所為で誰にも言えないふたり暮らしオメデトウ?僕は一刻も早く解消した方がいいと思うけど…『阿部さん』」
相良さんとはとっくに仲直りもしていて、合鍵までもらって、ふわふわあまい中でうんと幸せな筈だった。
だから。
早口で告げられた相良さんのこと、ききたくなかった。
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