第77話

「誰?げーのーじん?」



綺麗なお顔が覗いて、というよりは覗き込まれたことによって肩を揺らしたーー家での出来事。




「さがらさんっ」


おばあちゃん座りのまま目の前の机に着いていた両拳をぐーっと伸ばし、あせあせと俯きかけた。


「お、おかえり…なさい」



相良さんはお風呂上がり。小さな雫はぽたぽたと垂れ、スッキリした目鼻立ちが目立った。思わずジッと見つめてしまうくらい。




「ん、なに。テレビ観てたんじゃないの」




な、に。



そのままにの口を目で追って、「それより綺麗だなぁって」とそわそわ答える。彼は意味を理解して、ちょっと困ったような照れたような表情になってから「ばか」って、


「…、わっ」



ちらりと、立ったままの相良さんを盗み見上げていた。淡い白のニットセーターへ小粒な雫が入っていく。



どきどきしていたら大きな手の平が伸びてきて、髪を、くしゃくしゃ。



「テレビを観ろ、テレビを」



「…はいっ」


「……あー。むり。もうむり。俺もテレビ頭に入らなくなった。おまえの所為で」


「すみません!!」



ふと彼が微笑う。




顔が熱い。




さがらさん。


わたしも今、髪乾かさないんですか?っていいたくて、けど偉そうにいえなくて…って、頭の中が貴方のことでいっぱいです。



もう長いこと、貴方のことばかりです。






だから。


もっと、しりたくて。


こわくても。







***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る