会社には、ひみつの恋。

第75話

「…………」


「阿部さん?〝仲直り”、しましたカ?」「わっ」



「……すみません、そう驚くとは」



「わ、わたしのほうこそごめんなさい」


頭を下げて、戻した先に――いつかの社員食堂では大変お世話になり、ご迷惑までおかけしたエプロン姿のおにいさんがいらした。


平日の午後。



「お久しぶり。何か嬉しそうな横顔を見かけたので声を……。?見ていたのって、鍵?」



この前と同じ、少し離れた所に立っていた彼が歩みを進める。


ふわりと廊下を吹き抜けた風、と一緒に、指された『鍵』を柔く握っていた手の平が滲む。



「こ、れは」


「え、家の鍵?」


「は…」


『使いたいだけ、使って』――




ついつい浮かれて、取り出していたけれどこれは秘密なことな筈。


恐らく私と相良さんふたりの。




しどろもどろになっている内におにいさんは私に影を作っていた。



そして、鍵を包んでいる方の手の首を掴まれ顔を上げた。



「阿部さん、また?」


「え」


「また?君に嘘を吐かせようとしているコイビトがいるんだよね、この前それは解ったけど…まさか相手は〝身内”じゃないよね?」





――小さく震えた腕を、突然現れる強い力が捉えた。




「おにいさん?」

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