第71話
結局、予約したチケットは使われないまま他の方にお譲りした。
また、気持ちを返すことができなかった。褒められることがあるなら相良さんに予定があることを聞くより早く誘わなかったことくらいだった。
帰って来られる日の夜は、〝彼の家”でご飯を作ってまつ。
ご飯くらい頑張れたらいいのだけれど、私の腕は平々凡々で料理は相良さんの方が上手。
また、次。頑張ろう。
……いつも、そう。
冷たいフローリングを見つめて罪悪感。
次、次って、そうしている間に相良さんの心が離れてしまったらどうしようって、少しずつ。怖かった。
視線の先、ソファに畳んで置かれたニットを見つけた。
あのマスタード色のニット。
傍へ寄って、テレビの音の中それをそっと抱きしめる。
ふわりと香る相良さんの香りに、何だか、涙が滲んでしまいそうで。息をとめた。
申し訳ないような、
さみしいような、
愛しいような。
そういう想いが、最近ずっとある。
「……どう、して。わたしなんだろう」
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