第72話

「ただいま」




0時を回る頃、そっとこえを落とす。



もう眠っているだろうなという考えからインターホンは通り過ぎて、中へ。

廊下に明かりは点かなかった。


一緒に住み始めてからずっと、パタパタとスリッパの音と一緒に出迎えてくれているあべの姿も見当たらない。


「…」


唯一電気が点いていたのは、リビング。そこかと自室を通りすぎ、



ソファを覗くと、居た。やっぱり――




「えっ」




えっ?




ア、




に、にっとが!!




「え、え……」





悶絶、だった。


鞄は熱を持ってフローリングへ落ちていく。



身体の小さなあべ。(俺がきていた)ニットにすっぽり頭から突っ込んで包まれて、すやすやと何も知らず寝息を立てていたのだ。




「~~~~~~っ」




なに?


何で?


何でそういうことするわけ?




普段は一切寂しがりなところを見せない彼女への、言葉にならない想いは押し殺す。



もう何度もお世話になっている壁にまた頭を叩きつけて戻ってきて、お得意の役立たず理性を発して触れ、抱き上げて抱きしめて、そっとどこかへ寝かせておいて、後々用意してくれていた飯を食った。



「…うまい」


美味しいのに、食った気がしなくて、感じる罪悪感。





「いい加減にしろ…」

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