第66話

「かんなちゃんかんなちゃんかんなちゃんー」


私でさえ幻覚を見たのではないかと思ってしまうくらい成り果てた別人の姿で暴言を吐いたうみちゃんはすぐに元に戻って、かわいくしっぽを振るように。



「お誕生日、おめでとう」


生まれてきてくれてありがとう、と。そこまで言うと、相良さんの目の前、で。増してや彼の腕の中にいるにも関わらず、あろうことか、頬に。



きす…をした。



「ふぁ!?」


「アー、赤くなっちゃって可愛い。……かんなちゃん。コイツはどーでもいーけどぜっったい、瑛くんの家にだけは家出しないで」



「ハチくん?」



問うた相良さんに答えようとするも、それを遮ったうみちゃんが「ね、解った?」と続けた。



「んー、じゃ、俺もう行くから――お前とはもう二度と逢わないといいな――かんなちゃん、大好き」



黒くスタイリッシュな腕時計をちらりと見遣ったうみちゃんは相良さんの方は一切見ず、再度私の頬に触れて大好きだよ、と。


そう、呟いて玄関を後にした。

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